医療教育情報センター

EBMとは
 Evidence−based Medicine の頭文字をとった略語で、「根拠に基ずいた医療」と訳される。その意味は「手に入れることができる最良の証拠と患者の個別性を考えて行う医療」という事である。
 従来から行われてきた診療は、医師が有する医学的知識と経験的技術に基ずいたものであるが、EBMではそれに加えて疫学的視点と患者の価値観を考慮した一連の行動指針が要求される。臨床疫学は患者の診断、治療、予後などを疫学的、統計学的に解析し、患者を個別的に判断する方法論であり、医療の有効性を評価する学問である。

 こうした医療上の新しい概念は、1980年前後に欧米で誕生した。すなわち医療の質にたいする関心の高まりを背景にして、地域や医師によって同じ病気でも診療パターンが異なったり、診療の根拠となる科学的データが意外にも乏しかったり、治療薬の効果に関する臨床試験の数は膨大である割にはその結果が実際には活かされていないこと、などが指摘されるようになった。
 例えば、「かぜの患者に対する抗生物質は本当に効果があるのか」、「転移のある胃癌患者に対する抗癌剤投与は本当に有効なのか」といった疑問は、明確な解答が得られないまま行われてきた。

 EBMはこうした疑問に対して妥当な結論を得るための診療技法を提供する。
すなわち、
(1) どのような患者で、(患者 Patient)
(2) どのように対応して、(介入 Intervention)
(3) 何と比較して、( Comparison)
(4) どのような結果が予想されるか、(帰結 Outcome)
について明確にしようとするのである。この4項目の頭文字、つまりPICOを明らかにすることになる。

 EBMというこの新しい診療理念は、我が国にも導入され、これまでの経験や 慣習による医療から、科学的に信頼性の高い研究報告に基ずいた診療へという考え方に変わってきた。 各専門学会でも最新の研究報告を比較検証して、疾患ごとに診断や治療をあらためて見直して診療指針(ガイドライン)を策定している。
 厚生労働省では「臨床医が診断、治療する際に役立つ情報を提供することで、医療の質の向上と患者サービスを図る」ということを目的として2000年から ガイドライン作りに乗り出している。
 厚労省や学会が作成した診療指針(ガイドライン)は、既に幾つかの疾患については発表されているが(注)、その中には胃潰瘍、白内障など従来の治療の“常識”を揺るがしたものもある。

 EBMを実践することで、より効果的な質の高い医療を提供することが実証されつつある。その意味でEBMの医学医療に与える影響は計り知れないものがあり、医療の質の向上に役立つことが期待される。

 しかし元来、「臨床医学は不確実性の科学である」と言われている(オスラー、W)。医学知識や技術がどんなに進歩しても、なお医療には患者の個別性が存在する。科学的根拠や確率統計的予測を算出しても、それ以外に患者の価値観、インフォームドコンセント、患者医師間の信頼関係、患者のQOLなどさまざまな倫理的要素も加わることになる。

 こうしたことを考えると、EBMという診療理念から診療指針(ガイドライン)が策定されたこと自体は意味のあることであるが、これを金科玉条の如くにして振りかざすことには心すべきである。(NH)

(注)
現在発表されている診療指針(ガイドライン)
糖尿病、急性心筋梗塞、高血圧、喘息、前立腺肥大症、胃潰瘍、脳梗塞、白内障、腰痛、関節リウマチ、くも膜下出血、アレルギー性鼻炎、肺がん、乳がん、
アルツハイマー病、胃がん など。(平成15年7月 現在)

(No001;2003/07/25)

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