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血液がん 特に悪性リンパ腫−形態学が機能学に敗れた歴史的エポック

 血液細胞のがん(悪性腫瘍)は大別すると白血病と悪性リンパ腫に分けられる。厚 生労働省がん統計に依ると、日本人が1年間に胃がんで死亡する確率は、肺がんは 20人に1人、胃がんは25人に1人、血液がんは80人に1人とのことである。血 液細 胞は骨髄やリンパ節を含むリンパ組織で作られる。血液細胞は血液の中に存在するので あるから、普通ならば血液とともに全身を流れている。従って、血液細胞の一つであ る白血球系統のがん細胞は、血液と共に全身を流れる。これを白血病と呼んでい る。従って純粋の白血病であれば、胃がんや肺がんのように肉眼で見ることの出来る 固形の塊をつくらない。従って手術でこれを取り除く事は出来ない。
 血液細胞のがんであってもリンパ節のようなリンパ組織に発生するがんは局所で固 まりをつくる。すなわち侵されたリンパ節は大きくなる。リンパ節から生じる悪性腫 瘍には多くの種類がある。これら全てを総称して「悪性リンパ腫」と呼ぶ。30年位 前までは、悪性リンパ腫の起源は組織球あるいは細網細胞であると考えられていた。 細網細胞は鍍銀という特殊な方法で組織片を処理すると,顕微鏡下で細胞が細い網の ような線維をつくっているように見えたので、そのような名称がつけられたのであ る。悪性リンパ腫のリンパ節を顕微鏡的に観察し、細網細胞が発生起源であると考え ると、当時はそれを悪性リンパ腫の中の細網肉腫(肉腫とは上皮でない細胞から発生した悪 性腫瘍のこと)であると病理形態学的に診断していた。そして悪性リンパ腫の中で、 細網肉腫が最も多いと考えられていた。そのために当時は鍍銀を一生懸命やったもの である。
 ところが、免疫学が発達すると、悪性リンパ腫の大部分はリンパ球系由来であるこ とが明白になった。即ち病理形態学が免疫学に敗北したのである。
 しかし、リンパ節の病気が悪性リンパ腫であるか、否かの決定は現在でも顕微鏡に よる病理形態学に拠らねばならない。リンパ球由来の悪性リンパ腫は単一の疾患では ない。さまざまな病型があり、現在では免疫学的反応を組織切片の上に起こさせて、 それを顕微鏡下で観察する免疫組織化学という方法が駆使されている。即ち形態学と 免疫学的化学反応とのドッキングである。
 悪性リンパ腫は各年齢層に起こるが、病型によって、好発年令、発生部位、抗がん 剤の感受性、予後などに相違がある。従って、治療に当たっては正確に病型を確定す る必要がある。それには精密な免疫組織化学的検索が必須である。染色体のさまざま の異常もあり、染色体の分析も病型の確定の助けとなる。現時点では悪性リンパ腫は 44型に分類されるという。将来の学問の進歩と共に病型の数はもっと増加するであ ろう。(IS)

(No012;2004/07/23)

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