No15 NBM(Narrative-based Medicine)−物語と対話による医療

 近年、医療はEBM(Evidence-based Medicine エビデンス・ベイスト・メディスン 根拠に基づいた医療)という新しい診療理念が重視されるようになった。これまで行われてきた診療は、医師が有する医学的知識と経験的技術に基づいたものであるが、医師個人の経験や勘にだけにたよる“独りよがりな医療”に陥る危険があった。極端なことをいえば、同じ病院、同じ診療科であっても担当医によって診療パターンが異なることも珍しいことではなかった。
 EBMは本欄で紹介されたように(No001;2003/07/25)、最新の臨床研究に基づいて統計学的に有効性が証明された治療を選択することにより、より効果的な質の高い医療を提供することを目的としている。実際、EBMの考え方に基づいて、疾患ごとに診断や治療について作成された診療指針(ガイドライン)は有効であることが実証されている。
 しかし、EBMは全ての患者に有効であるわけではない。その有効率は60〜90%とされ、有効でない患者が40〜10%%存在することになる。また、根拠になるデータが十分そろっていない疾患、治療が困難な疾患、高齢者のケア、死に至る病気、あるいは精神に関わる病気などEBMを適用できない場合もある。そのために、EBMで有効とされる医療技術を患者に応用するか否かは、患者の病状や副作用を考慮し、患者の価値観や意向を取り入れ、医師の経験を活かして決めることが望ましい。
 こうした考え方から、EBMを実践してきた英国の開業医から提唱されたのがNBM(Narrative-based Medicine ナラティブ・ベイスト・メディスン 物語に基づいた医療)である。「ナラティブ」は「物語」と訳され、患者が対話を通じて語る病気になった理由や経緯、病気についていまどのように考えているかなどの「物語」から,医師は病気の背景や人間関係を理解し、患者の抱えている問題に対して全人的(身体的、精神・心理的、社会的)にアプローチしていこうとする臨床手法である。NBMは患者との対話と信頼関係を重視し、サイエンスとしての医学と人間同士の触れあいのギャップを埋めることが期待されている。
 サイエンスとしての医学を支えるのは客観的なデータである。最近は医療機械や検査が次々と開発されて、医師も患者もそれに頼るあまり、両者の対話やスキンシップともなる診察が軽視されがちである。その結果、患者はいきなり検査を希望する。医師は検査に異常がなければ病気と考えない。そして患者の悩みや苦しみは癒されないことになる。NBMの立場からは、従来の問診と身体診察の重要性を再認識する必要がある。
 EBMとNBMは対立するものではない。むしろ、互いに補完するものといえる。ちなみに、日野原重明先生は「医学というのは、知識とバイオテクノロジーを、固有の価値観を持った患者一人ひとりに如何に適切に適応するかということである。ピアノのタッチにも似た繊細なタッチが求められる。知と技をいかに患者にタッチするかという適応の技と態度がアートである。その意味で医師には人間性とか感性が求められる。」と述べておられる。まさにEBMとNBMはサイエンスとアートの両輪として、真に患者の満足度が高い“患者中心の医療”には不可欠のものといえる。

(No015r;2004/11/15) TI