医療教育情報センター

「かかりつけ医」を育てる

 わが国はすでに高齢社会を迎え、医療の主な対象が急性重症疾患から生活習慣病を中心とする慢性軽症疾患へと疾病構造が変化し、治癒を目指す医療からコントロールする医療へ、医師中心の医療から患者中心の医療への転換が求められている。
 さらに、患者の人権意識の高まりによる自己決定権の主張や医療訴訟の増加、医療費、特に高齢者の医療費高騰などの問題もあり、従来の細分化された疾患中心の専門診療のみでは対応できなくなっている。
 こうした状況を踏まえ、厚生労働省は、医学部卒業後すぐに専門医を目指すこれまでの医師の臨床研修を改革し、2004年度より総合診療方式による臨床研修を義務化した。これは、内科、外科、小児科、産婦人科、精神科、救急医療、地域保健・医療などを2年間で研修するというものである。専門領域にかかわらずありふれた病気の診療や救急の初期対応ができることなどが期待されている(医療ニュース No23)。
 一方、患者サイドからは、自己決定権が尊重され治療方針に関与するために、「インフォームド・コンセント」(新しい診療理念 No6)や「セカンドオピニオン」(新しい診療理念 No2)を当然の権利として要求できるようになり、同時に医師の説明を理解できる基本的な医学知識を収集したり、治療方法を選択するときに自分自身の価値観という“物差し”も必要になった。
 患者中心の医療を実践するためには、医師患者間のコミュニケーションが重要であり、そのためには十分な診察時間が欠かせない。現状では、患者は専門診療を希望して大病院に集中する。そうなると、待ち時間が長く、診察時間が短くなってしまう。理想の医療の実現のためには、患者をよく知り、地域に密着している「かかりつけ医」と、総合病院の専門医との連携が不可欠である。そのためには患者自身も協力することが求められる。
 しかしながら、現実には信頼できる「かかりつけ医」を得難く、いわゆる名医を紹介している本から見つけ出すことはできない。「かかりつけ医」は主治医といえるものであり、人間的な付き合いのある医者でないと務まらない。したがって、患者が身近に「かかりつけ医」を育てていく努力が求められる。
 「かかりつけ医」候補といったん決めたら、家族ぐるみで何でも相談する。健康診断の結果を持って相談に行くのもよい。こうして自分のことを詳しく知ってもらうと、受診の度にいちいち説明しなくても、自分のバックグランドを知ったうえで診てくれることになる。診察時間の節約になり、一番心配していることに時間をかけて相談できる。なじみになれば人間的な付き合いも始まることにもなる。
 「かかりつけ医」は専門診療が必要と判断すれば、紹介状を書き専門医に紹介する。紹介を受けた専門医はきちんと対応し、診断結果を「かかりつけ医」に文書で報告する。こうして「かかりつけ医」の勉強になるとともに、病院との間にパイプができる。
 患者中心の医療というと、自分本位でわがままな患者であっても、医療側は受け入れるべきだという考えが一部にあるが間違いである。医師は病気を治す人、患者は治してもらう人ではなく、病気という荷物を一緒に運ぶ。医師の分担はもちろん大きいが、担い棒の端っこは患者や家族が持つ。常に情報を共有して、患者の希望を医師は取り入れ、医師も自分の方針を分かるように説明する。互いに相談しながら患者の問題を解決するために一緒に歩む。こうした医療が展開されるようになれば、医療にかかわるいくつかの問題は解決に向かうと考える。(TI)                 

(No25;2006/01/20)

新しい診療理念・バックナンバー