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ADR(裁判外紛争解決手続)と医事紛争

 裁判外紛争解決手続ADR(Alternative Dispute Resolution)とは仲裁、調停、あっせんなどの、裁判によらない紛争解決方法を広く指すものである。これに関して平成16年12月1日に「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)」が成立し、公布された。
 医療訴訟は年々増加していて、最高裁のまとめによれば2002年には896件となり、10年前の1993年には442件あったのがほぼ倍になっている。さらに解決していない件数も増加し、1993年には1352件であったのが2002年には2010件へと増加している。裁判での審理にあたっては医療行為の適否などが問題となり、その判断には医学的な専門知識や経験を有する鑑定人の意見が必要となるが、その確保に長時間を要するので、迅速な問題解決の阻害因子となっていた。
 医療事故訴訟の事例で担当する弁護士から医学的意見を求められる中には、家族の希望は、事故の経過や本当の原因は何かを知りたいのであり、必ずしも損害賠償を求めているのではないものもある。しかし医療行為の過失の有無を争う裁判の過程の中で医療事故の原因を明らかになることは難しいとされている。
 国立保健医療科学院によれば、訴訟になる前の医事紛争は医師1人に約1件、年間ほぼ20万件にのぼり、訴訟に至るのはその内の900件弱、全体の0.5%以下であるという。
 「裁判外紛争解決手続きの利用の促進に関する法律」が成立したことにより、今後医療・介護事故後の病院・施設側と患者・利用者側との紛争解決に利用されることが予測される。
 京都府医師会ではADRのようなことはかなり以前から実施されていたという。京都府医師会の宇田憲司氏によると、京都府保険医協会では1959年から協会理事(会員医師)が患者側との交渉を当該医師に代行して実施し、1961年からは担当理事を選任して医事紛争処理部を発足させ、京都府医師会にも1962年に医事紛争処理室を設け、1965年に医事紛争検討委員会(医療安全対策委員会2003年)を発足させている。
 医師賠償責任保険処理室は医事紛争を円満に、かつ迅速に解決するために第三者機関として、事故原因の調査、損害賠償金等の支払いの妥当性やその金額について審議するものとされ、医療機関から提出された「医療事故報告書」に基づいて室員若干名と協会顧問弁護士2名が審理にあたり、参考人を呼んで意見を聞き、必要に応じて患者側との面談も実施して、紛争原因の究明、医療機関の責任の有無、程度割合(寄与率)の判定、賠償額の算出をして、その結果に基づいて当事者間による示談交渉にゆだねて、一定の成果が得られたと言う。
 医師側が設立した機関であるため、患者側からは結果の公平性に疑問がもたれるかも知れないが、これまで取り扱われた事例、あるいは解決しなくて裁判となった事例などのまとめを見ても妥当な解決法であると思わる。(SF)

(参考文献)
1)宇田憲司:医事紛争とADR−京都府内での裁判外紛争処理の実践過程―。医事法の方法と課題―植木哲先生還暦記念―信山社 2004年691-721頁                  

(No27;2006/04/07)

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