No28 知ってもらいたい医学用語の基本 (1)腫瘍 その1

 医学・医療に関わる情報が溢れている。しかし、病気に関わる学術用語の基本が理解されていないために、それらの情報が誤解される恐れが多分にある。例えば、ガンと言えば死に至る怖い病気というイメージはあっても、ガンの医学的定義を知らずに、溢れる情報に接しているのではないか。そこで、沢山の種類の病気がどのような科学的な根拠のもとで、名前が付けられているのかを簡潔に説明する。
 今回は、まず「腫瘍」について解説する。腫瘍と「腫瘤」とは異なる。「腫瘤」とは、病気の種類が何にであれ、体や臓器の一部に塊が生じている状態である。従ってこれから述べる腫瘍によって腫瘤が生じることもあるが、腫瘍でない他の病気で塊が生じている状態も腫瘤ができていると表現する。従って腫瘍と腫瘤とは同義語ではない。
 生物の体は一定の統制のもとに全体のバランスがよく保たれている。体に創傷をおったとき、時間の経過とともに、組織が再生(肉芽組織という)して、傷口を塞ぎ、治ってゆく。創が完全に治ってしまえば、その肉芽組織の増殖はストップして、際限なく増殖することはない。しかし「腫瘍」は、何らかの原因で異常な細胞が増殖を始めると、止まることがなく、勝手に増殖をし続ける病気である。これを自律性をもった過剰な増殖と言う。従って腫瘍のことを「新生物」とも呼ぶ。
 多くの腫瘍は塊を形成するが、血液細胞は元来一個づつバラバラに血液の中を浮いて流れ歩いているのだから、腫瘍化しても塊をつくらない。これの代表的なものは白血病である。
 腫瘍は良性腫瘍と悪性腫瘍に大別される。数は少ないが、今の医学では、良性か悪性か判別できないものもある。
 良性腫瘍は、周囲の正常組織を圧迫しながら発育して大きくなるので、その境界は鮮明である。これを膨張性発育という。良性腫瘍は転移をしない。手術で切除しなくても、それを持った患者さんをそのために直接死に至らせることはない。悪性腫瘍は、そのまま放っておけば、患者さんは死に至ることになる。悪性腫瘍の細胞は正常組織の中に侵入するようにして増殖する。これを浸潤性発育という。従って悪性腫瘍の塊の境界は不鮮明で、腫瘍組織と正常組織の境界を肉眼で判別できないことも多い。悪性腫瘍の細胞は血管やリンパ管の中へ侵入できるので、血液やリンパ液にのって離れた臓器に転移する能力を持つ。
 腫瘍の名前は腫瘍細胞が由来する細胞名(発生母地細胞という)を用いることが多い。子宮の良性腫瘍である筋腫は子宮筋層の平滑筋細胞から由来する。しかし腫瘍によっては、特に悪性腫瘍では、発生母地細胞が分かっていないものもあり、その場合には腫瘍の肉眼的、顕微鏡的特徴(形態学的特徴)に基づいた名称を用いている。
良性腫瘍にも、悪性腫瘍にも多くの種類がある。次回はそれについて解説をしたい。

(No028n;2004/09/03) IS