医療教育情報センター

総合的ながん医療システムの構築

 がんは昭和56年より死因の1位を続けている。平成17年度の統計でも死者数 108万4千人に対して、がんによる死亡者数は32万6千人で、むしろ増加傾向にある。わが国の最新のがん患者の罹患数は年間約56万人と推計されており、まさに2人に1人はがんになり、3人に1人はがんで亡くなる時代であるといえる。
 昨年放映されたNHKスペシャル「日本のがん医療を問う」では、欧米先進国は90年代以降、がん死亡率を下げているのに対して、日本では高齢化が進んでいる事情はあるにせよ、死亡率上昇が続く原因は何なのか、医療改革のために何が必要なのか鋭く迫った番組は反響を呼んだ。
 指摘された問題点は、がん検診での見落とし、世界の多くで使われている抗がん剤が使えない、有効な放射線治療を行う医師が少ない、がん専門医そのものが足りない、病院格差などである。ただでさえ少ないがん専門医の都市偏在によって、地方に住む患者は最新医療を受けられないという地域格差も問題になった。
 厚生労働省は平成16年度よりスタートした「第3次対がん10か年総合戦略」のなかに、全国どこでも、質の高いがん医療を受けることができる「均てん化」を掲げている。そのために国立がんセンター中央病院を中心に、地方中核がんセンターなどをがん診療連携拠点病院に指定し、拠点病院は地域の医療機関にがん医療に関する情報を発信することによりがん医療の向上を図るとしている。
 具体的な例としては、がん診療施設情報ネットワーク(がんネット)がある。国立がんセンター中央病院と全国18か所の主要ながん治療施設とを通信回線で結び、テレビ会議システムによるカンファレンス(症例の検討等)を行い、がんの診断・治療についての最先端の情報や技術の共有化により、地域におけるがんの診療レベルの向上を図っている。
 こうした動きの中で、京都大学が平成21年の開業を目標に、同大学医学部付属病院の敷地内にがんセンターを建設することを発表した。センターは地上8階、地下1階建てで、70億円の寄付金をもとに建設されるという。
 大学病院は、がんの専門家は多くても、がん専門病院に比べ、外科系、内科系などの診療科間の連携が悪く、縦割り的な対応が問題になっているうえ、学生への総合的ながん教育の不十分さも指摘されている。開設するがんセンターでは、がん診療・研究・教育の一大拠点を開設し、こうした問題の改善を図る。
 例えば肺がんであれば一つのユニットをつくり、そこに外科医、内科医、放射線治療医らが集まり、どの治療法が患者にとってベストなのかを決める体制をとるという。医学部での総合的ながん教育についても、総合的ながん教育の講座を開設することを検討する。
 乳がんについては、すでに「総合力」が乳がん治療の質を決め、治療施設の総合力が評価対象になっている。手術する外科医のほか、がんの性質を見極める画像や病理の診断医、再発・転移を防ぐ放射線や化学療法の専門医、乳房再建を行う形成外科医らの総合力が問われる。
 がんは、遺伝子病、生活習慣病、老化現象の一つであるとともに、ストレスによる影響が発症と経過に関係しており、心の病気でもある。がんが多くなる高齢者は、がんの治療によって合併症を起こす頻度も高い。その意味で、身体的な病気としての面からだけでなく、がん患者の精神心理面や、がん患者を支える家族など社会的な面を含めて対応する真に総合的ながん医療システムの構築が期待される。(TI)                 

(No29;2006/06/12)

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