医療教育情報センター

死をみとる医療


 最近、相次いで安楽死・尊厳死をめぐる問題が国内外で起き、話題になっている。不治の病になって苦痛が大きいとき生命維持装置を外して自然な死を迎えるという尊厳死は、生物としての死である。一方、生物とは異なる「人間としての尊厳」をもって死にたいという尊厳死を実現するためには「死をみとる医療」が求められる。
 人は全人的に死んでいく。全人的というのは、人間を単なる身体的な存在ではなく、精神的、社会的、霊的な存在とみなすことである。すなわち、人は生物としての生命だけでなく、精神心理的な生命、社会的な生命を有し、亡くなるときもそれぞれの生命が失われていく。
 「死をみとる医療」とは、現代の医療では治癒の見込めない終末期にある患者さんに対して、全人的な観点に立って痛みの緩和と精神的な支えを行うことである。患者さんが苦しむことなく、最期の瞬間まで充実した生活を送れるように身体的、精神的、社会的、霊的にサポートする。
 身体的苦痛には、痛み、身の置きどころがないようなだるさ、息苦しさ、吐き気、便秘、口渇などがある。がん末期には痛みのケアがもっとも重要になるが、モルヒネを適切に使用すると9割はコントロールできる。
 精神的苦痛には、不安、いらだち、孤独感、恐れ、怒り、うつ状態などがある。患者のそばに座り、話をよく聞く。理性よりも感情に焦点をあて、安易な励ましを避ける。最期まで希望を与えるなどが重要である。
 社会的苦痛には、仕事上の問題、経済上の問題、人間関係の問題、家庭内の問題などがある。家族のケアに対しては、家族が悲しみを表に出すことをたすける。十分泣くことができた遺族は死を受け容れ、立ち直りが早い。
 霊的ないしスピリチュアルな苦痛には、死を自覚したとき、無に帰するという恐怖を感じたり、死後の世界についての疑問を持ったりすることがある。また、なぜ自分がこの病気になり、この年齢で死ななければならないのかと考えたり、自分の人生の意味は何だったのかを問いなおしたりする。「魂」のケアは、宗教を持っているかどうかで異なるが、個人が生きてきた証しは死後も生き続けることを確信するだけでも救われることが多い。
 「死をみとる医療」はホスピスでないと受けられないことはない。ホスピスは入院施設だけでなく自宅も含まれ、ケアの対象は患者さんだけでなく、その家族も含まれる。最近は、在宅医療で最期までみとる診療所も増えてきている(「末期がんの方の在宅ケアデータベース」http://www.homehospice.jp/db/db.php)。こうした動きを受け、厚生労働省は、患者が終末期を自宅や地域で迎えるため、医師や看護師、薬剤師など医療関係者とケアマネジャーら介護スタッフが連携する「在宅チーム医療」の体制づくりに乗り出している。(TI)                 

(No33;2006/10/27)

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