医療教育情報センター

新しい医師の生涯教育


 医学知識・技術の急速な進歩や変化する社会状況に対応するため、医師は医学校を卒業したあとも、生涯に亘って医学の研鑽に励むことが一つの使命とされている。これを生涯教育Continuing Medical Education(CME)と呼び、世界中の医師は多忙な毎日の診療の中でCMEに励んでいる。わが国でも医師会や各専門学会がこれを推進するべく長年努力してきている。
 しかし最近の医療事故多発の報道などから、国民の医師や医療に対する信頼が揺らいできており、専門職としての医師の能力(プロフェッショナル コンピタンス)を論ずる声が大きくなってきた。
 CPDとはContinuing Professional Developmentの略で、直訳すると「継続的専門職能力開発」ということになるが、何のことか分かりにくい。従って現時点ではCPDという略語のまま用いることが多い。
 CPDという言葉は英国において初めて用いられた。英国国民保健サービス(NHS)が、1998年、医師を始めとしてすべての医療従事者に対して、質の高い医療を提供するための新しい生涯教育の原理を提唱した。時恰もこの頃、英国では医療制度に対する国民や医師の不満が高まり、同時に幾つかの重大事件(Bristol王立小児病院事件、Shipman事件など)が起った。こうしたことからNHSは医療改革にのり出し、病院という組織のあり方の立て直しを考えた。つまり医療サービスの向上のために、企業が経営管理において行っているコーポレート ガバナンス Corporate Governanceの手法を導入し、クリニカル ガバナンス Clinical Governanceを創設した。この中に生涯教育も含まれているが、従来のように医師個人の知識の習得に留まらず、病院や診療所施設全体を視野に入れた学習を意図した。そこにはこれまでのような講演会形式の講義中心の学習ではなく、現在診ている患者の病気について医師は看護師その他の医療スタッフと一緒に患者の抱えている問題点を解決する形式を基本としている。これは問題解決型学習であり、一方では英国の高等教育から出たWork−Based Learning、つまり一緒に働く人たちが、それぞれ専門職としての自覚と責任において仕事を通して相互に学び合うわけである。
 こうして英国で始まったCPDは、直ちにEU諸国に広がり、EU生涯教育認定協議会(本部ブルュッセル)が組織され、各国医師の生涯教育や専門医制などについての履修単位の互換など調整が図られている。
 従来の講演会一辺倒の受身型生涯教育から脱却して、患者に質の高い医療を提供するためにクリニカル ガバナンスを基盤にしたこのCPDは、確かに新しい生涯教育である。しかしまだ検討すべき点は数多くあり、今後の成果を見守りたい。欧米におけるこのCPDがそのままわが国ですぐ適用できることは難しいが、CPDの理念は妥当なのであるから、欧米のCPDを参考にしながら、わが国の医療状況にあった生涯教育を構築していくことが必要であろう。(NH)    

(No036;2007/02/19)

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