医療教育情報センター

笑いと臨床


 平成17年に設立された日本クリニクラウン協会は、3月4日、臨床道化師(クリニクラウン)を養成するために大阪市内で公開オーディションを開催した。オーディションには20〜50歳代の26人が参加した。オーディションに合格すると、約半年にわたりトレーニングと臨床研修を受け、協会主催の認定試験に合格して初めて臨床道化師となれる。現在、協会所属の臨床道化師10人が各地の病院を定期的に訪れ活動を行っている。
 クリニクラウンはクリニック(診療所)とクラウン(道化師)の造語である。入院中の患者さんたちのために道化師のパフォーマンスをする医師が主人公のアメリカ映画「パッチ・アダムス」が1998年に公開されてから世界的に活動が広まった。この映画は本名ハンター・アダムス医師の実話である。医学生であるパッチは、「愛と友情とユーモアこそ最良の薬」と信じ、医療のなかに人の愛を取り戻そうとする。
 一方、「癒しの環境研究会」(代表:高柳和江・日本医科大学助教授)は、平成17年より、笑いで自己治癒力を高め、病気を予防するサポーターとして「笑い療法士」の認定を始めた。笑い療法士養成講習では、心理学や脳の解剖学、笑いの社会学、精神医学、笑いと免疫力の関係などについて学び、ユーモアのセンスを身に付ける体験学習もする。現在、笑い療法士は143人になる。
 笑いが治療に役立つことを世界に知らせたのはノーマン・カズンズである。彼は医学にも詳しい米国のジャーナリストであるが、突然、強い痛みを伴う炎症性疾患である急性強直性脊椎炎という難病にかかり、医師から回復の可能性は極めて乏しいと言われた。しかし、彼はあきらめることなく、笑いがもつ治癒力に着目し、喜劇映画やユーモア本などに積極的に接して笑い続けた。そして、笑いによって症状を緩和することに成功し、数ヶ月後にはこの難病を克服したのである。
 我が国で笑いと治療の関係について調べたものとしては、伊丹仁朗氏が1991年に行った「笑いが免疫力を高める」とした研究が有名である。大阪なんばグランド花月で、ガンや膠原病をもつ男女18人を対象に、漫才・喜劇などを3時間にわたり体験してもらったところ、ガン細胞を殺すNK細胞の活性が14人で上昇した。
 最近の研究では、村上和雄・筑波大学名誉教授が行った笑いが血糖値を下げるという研究は世界に発信され、注目を浴びている。実験は、糖尿病の患者を2つのグループに分け、一方は昼食後に難しい講義を聞き、もう一方は吉本タレントの笑いをそれぞれ1時間聞いた後の血糖値を測ったところ、お笑いグループの血糖値が大幅に下がったという。
 笑いには、狭義の笑いとユーモアがある。狭義の笑いにも、微笑む程度から、腹をかかえ声を出す笑い、さらにジャパニーズスマイルと呼ばれる社交的な笑いまである。ユーモアについても、駄洒落などの言葉遊びから、ブラックユーモア、自虐までいろいろある。
 哲学者で司祭であるアルフォンス・デーケン氏は、ターミナルケアの場においてユーモアの大切さを早くから強調されているが、 患者が苦しい状況にある“にもかかわらず”楽しくしてあげたいという精神がユーモアを生み出すという。ジョークがユーモアと混同されて使われることがあるが、ユーモアにはあたたかさが感じられる。
 真に笑いを臨床に生かすには、お笑いビデオのような処方箋だけでなく、臨床にかかわる人間には深い人間愛が求められていると考える。(TI)                 

(No037;2007/03/16)

新しい診療理念・バックナンバー