医療教育情報センター

アルツハイマー病のワクチン療法


 アルツハイマー病は認知症を主な症状とする中年以降に発症する疾患で、わが国では65歳以上の高齢者の7%が認知症を有し、その60%はアルツハイマー病が原因と考えられているが、65歳以上の高齢者が人口の20%を超える超高齢社会となった日本では認知症患者が急速に増えている。
 オーストリアの精神科医のアルツハイマーが1906年に嫉妬妄想で発症し、記憶障害、見当識障害などの症状が進行して死亡した女性の病理所見を発表したことから命名されたもので、脳の病理学的所見として老人斑の形成と神経原繊維変化の2つの特徴的変化がある。その後の研究によりこの病気の本質は細胞外に分泌されたアミロイド・ベータペプチドがカスケード化し凝集蓄積することである事が分かってきた。
 1999年に米国のシェンクらはアミロイド前駆体蛋白遺伝子導入マウスをアミロイドベータ蛋白で免疫したとき、老人班の形成が予防できることを発見し、米国・英国で行われたヒトでの第1相試験で副作用がなかったので、引き続いて第2相のヒトで治験が行われたが、ワクチンを1,2回接種したところで髄膜脳炎が280人中18人(6.4%)に出現したために中止された。しかし、肺梗塞で死亡した症例の脳の病理学的検査で、老人班の形成が抑制されていることが分かり、ワクチン療法の可能性が示唆された。
 その後研究が続けられ、皮膚に貼るパッチ(貼付)剤が開発され、マウスに経皮ワクチンを用いて有効性が証明されたという報告もある。
 日本の研究者により口から投与され、腸管を経て吸収される経口ワクチン、あるいは鼻粘膜を通して吸収させる経鼻ワクチンを開発したという動物実験の報告があり、アルツハイマー病のワクチン療法に期待が持たれているが、人体での試験はまだ開始されていない。
 動物実験でアルツハイマー病の発病を予防するという有効性が証明されたとしても、人間で副作用の有無などその安全性が証明される必要があり、実際にワクチンが実用化されるまでにはかなりの時間がかかると思われる。(S.F)

(No039;2007/06/08)

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