医療教育情報センター

治療の初期段階から行う緩和ケア

 2006年6月、参議院本会議で現職議員が自らがんであることを告白し、その早期成立を訴えたことが世論の共感を得て与野党が歩み寄り、全員一致の賛成で成立した「がん対策基本法」は本年4月施行された。本法律の基本理念は、がん患者が個々の意向を尊重され、住んでいる場所に関係なく、等しく適切な治療を受けられるようにすることである。
 周知のように、がんは1981年死亡原因の1位になったがその後も増え続け、現在は年間32万人ががんで死亡、全死亡原因の30%を占めている。治療技術の進歩や早期発見・早期治療によりがん患者の50パーセントは治癒すると言われているが、新にがんになる患者数も死亡者数も減っていない。言い方を変えれば、がん患者の50パーセントは進行がんや再発によって死亡していることになる。つまり、がんの予防や治療だけでなく、終末期医療の充実が求められている所以である。
 「死を認めない」日本社会では、がんの根治を目指す治療が優先され、亡くなる直前まで抗がん剤治療に苦しみ、副作用で死亡するケースが少なくない。したがって、緩和ケアというと、「キュアからケアへ」ギアチェンジするように開始され、看取りのケアというイメージが強い。
 しかしながら、本来の緩和ケアはがん治療の初期段階から関わるべきであり、がん治療も終末期に至るまで適正になされるべきである。ちなみに、WHO(世界保健機関)は緩和ケアの概念を次のように定義している。
 「緩和ケアは、治癒を目的とした治療に反応しなくなった患者に対する積極的で全人的なケアであり、痛み、その他の症状のコントロール、心理面、社会面、精神面のケアを最優先課題とする。緩和ケアは、疾患の早い病期においても、がん治療の過程においても適応されるべきである」
 こうした早期の段階から治療と並行して行う緩和ケアは、実施にはいろいろ困難を伴うが、すでに一部の病院で取り組まれており、そこでの緩和ケアは多くの患者さんに「死の受容」とは正反対の「生きるための力」を与えているという(坂井かをり『がん緩和ケア最前線』岩波新書 2007)。
 がんの全人的医療を我が国全体に広めるためには、死にゆく患者を診る機会の多い医師に対して緩和医療の教育を行うことが必要である。また、早期から治療に緩和ケアを取り入れるためには、がん専門医がチーム医療の重要性を認識しなければならない。
 がん対策基本法と緩和ケアの今後の方向性については、6月15日に閣議決定された「がん対策推進基本計画」に、10年以内に、すべてのがん診療に携わる医師が研修等により緩和ケアについての基本的な知識を習得すること、5年以内に、全国すべての2次医療圏において、緩和ケアチームを設置することが盛り込まれている。
 一方、がん患者も、がん治療のみに頼る態度を改める必要がある。がんは生活習慣病や老化現象の一つでもあり、ありふれた病気である。予防として禁煙、食生活、運動など生活習慣の改善を図るとともに、高齢者の場合はがんを持ちながらいかに生きるかについても考えなければならない。(TI)                            

(No041;2007/08/30)

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