医療教育情報センター

在宅医療における胃瘻造設の功罪

 胃瘻とは経皮内視鏡的胃瘻造設術 Percutaneus Endoscopic Gastrostomy (PEG)によって栄養管理をおこなう有力な治療法である。脳梗塞や認知症などで寝たきりの生活を送る患者に胃瘻を作れば家に帰ることができ、在宅で医療を受けることができる。
 従来から我が国では病院において経口摂取ができない患者の栄養管理には静脈栄養が大きな地位を占めていた。しかし消化管の機能があるのに静脈栄養を行うことは、せっかく持っている消化能力を低下させるので胃腸の萎縮を引き起こすし、また点滴静注による栄養補給そのものにも限界があった。
 近年、栄養管理に関する学問が著しく進歩し、PEGが普及するようになった。日本消化器内視鏡学会ガイドラインによれば、脳血管障害、認知症などのため自発的に食事ができない患者や神経筋疾患のため嚥下困難の患者および咽喉頭・食道・胃噴門部の狭窄患者などではPEGを行うことが適応とされた。つまり在宅医療におけるPEGの有用性は、患者を抑制することなく、消毒も必要なく、確実に安定した栄養補給ができるというのである。患者は口からものが食べれなくても、胃瘻を通して十分な栄養物が補給されるので従来のような栄養低下にならないで済むようになったことは確かである。
 しかし一方、意識のない寝たきり患者に長年にわたり良好な栄養状態を維持できる結果、胃瘻は「栄養管理」から「延命治療」へとその意味が変わってくることも否定できない。QOLが低い状態の中で、胃瘻により生き延びることが患者にとって本当に望ましいことなのかという問題が新たに生じてきたのである。
 現在、胃瘻造設術を受けた患者は、40〜50万人いるといわれている。毎年15万人ぐらいのペースで新規に胃瘻造設患者が増えているという。胃瘻を作って退院し、そのあと在宅で介護をするわけであるが、胃瘻から離脱できないまま何年もたてば、患者のQOLと同時に長年看病している介護者や医療従事者にも心身の疲労が来るのは明らかである。
 しかもPEGの在宅管理では、PEGカテーテルのタイプ、経腸栄養剤の種類、胃食道逆流の予防、カテーテル交換を誰が、どこで、どうやってやるのかなど、予め患者家族は十分理解していなければならない。核家族化した少人数の家族の誰が、年老いた患者にいつまでそれを続けられるのかも問題であろう。
 国の医療政策は、急速な高齢化に伴う老人医療費の増大を抑えるため、できるだけ入院日数を短縮させ、療養病床を削減し、その分、在宅医療を進めようとしている。在宅医療が広がる結果、思わぬ医療事故が増えなければよいがと危惧するのである。
(NH)

(No045;2007/11/26)

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