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トランスレーショナル・リサーチ

 一般に研究は、「基礎研究」と「応用研究」に区別されることが多い。「基礎研究」は知識の探求そのものを目的とし、「応用研究」は基礎研究の成果を実社会に役立つサービスや製品を提供するための研究であると理解されている。しかし実際に基礎研究で得られた理論や法則が、サービスや製品として実社会に利益をもたらせるまでにはさらに多くの時間と労力および経済的投資(研究費)が必要である。この基礎研究の成果と社会への利益実現までの間を一般に「足踏み状態」とか「死の谷」と呼んでいる。
 一つの基礎研究の成果をいかに円滑に応用研究に結びつけ、社会の利益に還元させるか、つまり研究の「足踏み状態」をいかに効率よく回避するかということが、自然科学の世界では長い間問題とされてきた。とくに生命科学の基礎研究の成果を臨床に利用することの必要性が大きな課題となり、そこにトランスレーショナル・リサーチ(翻訳的研究)という概念が誕生したのである。かねてから米国では、国立がんセンターを中心とした研究が組織的に行われているのはよく知られている。わが国でも最近、再生医学の分野において、京都大学山中伸弥教授がヒト iPS(人工多能性幹細胞)の作成に成功するという快挙が話題となったが、これがいかに臨床に応用されるかが今後の大きな課題となっている。
 そもそもわが国で、トランスレーショナル・リサーチを国が推進への取り組みをしたのは平成14年からである。文部科学省は生命科学分野を科学技術振興政策のなかでもとくに重要分野と位置づけ、がん、ゲノム科学、再生・発生・分化、免疫・アレルギー・感染症、脳科学などの基礎研究を推進してきたが、トランスレーショナル・リサーチに関して具体的な研究実施面で積極的に取り組むことにした。現在、こうした分野の研究は、遺伝子治療、新薬開発、オーダーメ−ド医療、細胞治療などの技術開発に繋がり、難病の治療や先端医療技術の開発に期待が寄せられている。しかし実際には多くの課題がある。基礎研究からトランスレーショナル・リサーチへの移行のための科学的妥当性、トランスレーショナル・リサーチの実施主体(大学、研究所だけでなく、産・官・学協同および行政の関与)、トランスレーショナル・リサーチから臨床試験へのプロセスなど、研究当事者だけでなく、文科省、厚労省、民間企業および社会全体(マスメデイアを含めて)として考えていくことが大切である。(NH


トランスレーショナル・リサーチ 生命科学 基礎研究 応用研究 ヒト iPS細胞
(No049r;2008/04/21)

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