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胃がん予防とヘリコバクター・ピロリ除菌療法

 胃炎やその進展、胃・十二指腸潰瘍の発生や再発に胃粘膜のヘリコバクター・ピロリ菌の感染が強く関連しているという発見、さらに胃炎や潰瘍ばかりでなく胃がんの原因のひとつとしても注目を集め、この菌の除菌療法が胃がんの予防に役立つとの仮説でいろいろと研究が進められてきた。
 この菌は小さな螺旋状のグラム陰性(グラム染色されない)桿菌(桿状の菌)であるが、5〜10% 酸素下の環境でよく発育する。嫌気(酸素のない)環境や長期間の培養(人工的に発育・増殖させること)、抗菌薬との接触などで球菌状となる。ウレアーゼ(尿素の加水分解を促す酵素)産生能が強く、尿素を分解してアンモニアを生じる。この性質で強い酸性の胃酸を中和して胃粘膜で生育している。
 この菌は世界中の人から分離され、人が唯一の保有宿主(寄生する相手の生物)とみられている。土壌を含む自然環境からは検出されない。感染経路としては糞便―口および口―口伝播が有力視されている。内視鏡を介した感染が起こっているので、1患者ごとに使用後完全に洗浄・殺菌する必要がある。この菌の感染率は年齢とともに上昇し、わが国では50歳未満では30〜50%であるが、50歳以上では70〜80%と高い。
 この菌の初回検査としては、抗体測定法、尿素呼気試験、便中抗原測定法、迅速ウレアーゼ試験、組織鏡検法などがあるが、胃内視鏡検査とともに生検(胃粘膜の一部を採る検査)を行った場合は迅速ウレアーゼ試験と組織鏡検法ができる。残りの3検査は内視鏡を行わなくても行える検査で、それぞれ血液、呼気、大便で行う検査である。除菌判定の検査としては、尿素呼気試験と便中抗原測定法が使われる。
 日本人での研究で、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌を行ったグループと行わなかったグループを胃内視鏡で経過を8年間追ったが、除菌を行ったグループは1%に対して除菌を行わなかったグループでは13%に新たな胃がんが発見されたとの研究報告がある。
 いろいろな国からいろいろな民族での研究が発表されているが、民族差があることを認めなければならない。また内視鏡検査の発達しているわが国での研究の精度が比較的高いと考えられる。
 胃がんの高リスクグループ(家族内に胃がんが多発の人)では、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染の有無を調べ、除菌することが胃がんの予防に有効な手段であろう。しかし胃食道逆流症の悪化や食道がんの増加が除菌によって起こる可能性があり、それらとのかねあいも考慮する必要がある。(SS)


胃がん予防 十二指腸潰瘍 ヘリコバクター・ピロリ菌 除菌療法 内視鏡検査
(No053r;2008/09/01)

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