医療教育情報センター

スピリチュアルケア

 近年、「スピリチュアル」「スピリチュアリティ」といった言葉が人々の間に広く知られるようになり、スピリチュアリティ・ブームと言われている。発端は、1998年にWHO(世界保健機構)が、これまでの健康の定義、すなわち「健康とは、単に疾病がないとか虚弱でないだけではなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態である」に加えて、スピリチュアルな面も重要だという考えを提案したことによる(この提案に対して異論が出たため採択には至らなかったが、スピリチュアリティへの関心は高まった)。スピリットとは息や風のように目に見えないパワフルな、人間を生かす存在、すなわち「人生に意味や方向づけを与えるもの」と理解されているので、「スピリチュアルに良好な状態」とは、生きがいを感じて意欲的、前向きに生きることといえる。わが国ではスピリチュアルの適切な訳語がないため、カタカナでそのまま言うことが多い。
 終末期医療の現場では、ホスピス運動に伴いスピリチュアルケアが求められるようになった。近代ホスピスの創始者として有名なシシリー・ソンダースは、死にゆく人々を最も苦しめているのが、痛み−身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな痛み−であり、その痛みに対して全人的に関わりながら患者とその家族を支えていくケアが「ホスピス」であると定義した。特にソンダ−スは、末期の患者が死を目前にして人生を締めくくるときに、「多くの患者が自責の念あるいは罪の感情を持ち、自分自身の存在に価値がなくなったと感じ、ときには深い苦悶のなかに陥っている。このことが真に『スピリチュアルな痛み』と呼ぶべきであり、それに対処する援助を必要としている」と、スピリチュアルケアの重要性を主張した。これらのスピリチュアルな痛みは、特定の宗教の信者に限らず、すべての人がもつ痛みである。ソンダースは、「われわれの誰もが患者や家族からの質問に対応しなければならず、答えられないと感じたときにでも耳を傾ける努力をしなければならない」と言い、さらに「何も答えられないまま、患者と家族のそばにとどまっていること」と述べて、患者のそばにいることがスピリチュアルケアになることを示唆した。
 現在、スピリチュアルケアで最も基本とされる技術は「傾聴」である。「なぜ私がこんな病気にならなければならないのか」「人に迷惑をかけていきるのが辛い」などの問いや叫びに耳を傾け、それを受け入れることがスピリチュアルケアの第一歩である。心を尽くして聴いてもらうことによって、患者は現在の状態と今まで歩んで来た道を再認識しながら、気持ちや考え方、人生観、価値観を整理していく。スピリチュアルケアとは教えることではなく、患者自身の力を引き出す、セルフケアへの援助である。こうしたケアは終末期の患者のみならず、事故や事件の被害者の家族などにも大変重要である。(EN)


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(No054r;2008/09/29)

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