医療教育情報センター

成人そけいヘルニア

 「そけいヘルニア」は男性に多く、女性の12倍に見られる。年齢的には45歳から64歳までの1万人に70人、75歳以上では1万人に150人の頻度でみられ、高齢になるほど多くみられる疾患である。症状としては大腿の付け根(そけい部)に腫瘤(ふくらみ)あるいは痛みが見られ、昔からあった病気で、エジプトのミイラ(ラムセス2世:1151BC)に大きなヘルニア嚢が認められたという記載がある。
 治療法として膨瘤している部分を外部から押さえるヘルニアバンド(脱腸帯)による保存的療法も行われているが、これで治癒することはなく、ときに突出した腸が腹腔内に還納できなくなり、「かんとん(嵌頓)ヘルニア」となって緊急手術が必要になることがあるので、その予防のために手術が必要とされている。しかし「かんとんヘルニア」の発生頻度はそれ程多いものではなく年間に1000人に3人位といわれている。
 手術としては、腹壁の弱くなったヘルニア孔を周囲の組織で補強修復する方法が行われていたが、再発がみられることから、最近では人工的な素材(ポリプロピレン)でできたメッシュを用いて、穴を塞ぎ、緊張が加わらないようは方法が取り入れられて再発も減少している。さらに、内視鏡手術も行われ、より侵襲が少なく、術後の障害も少なくなるような工夫がなされ、日帰り手術も行われている。しかし手術後に合併症(感染、血腫など)が10%くらいに見られ、3%に激しい慢性疼痛が残り、5から10%に再発が見られる。
 そけい部の膨らみの他に特に自覚症状がない場合、いつヘルニア修復手術をすべきか、定説はなく、最近(2006年)、米国(720例)と英国(160例)で経過観察する群と手術を行った群の2年後の愁訴や再発などを痛みの程度と健康調査票(SF36)を用いて比較検討した報告が出されている。結果をみれば両者にほとんど差がないが、観察群に入った人が途中で手術をした例が2年間に23%あり、4年の観察では31%となっているが、一方手術の群に入ったが手術をしなかった人が17%あった。高齢になると術中、術後の合併症の率が高くなり、他の疾患を持っている人の手術は見合わされる可能性もある。
 術後愁訴としてそけい部の痛みに関しては、発生頻度は0.7%~36.7%とまちまちであり、スエーデンでヘルニア修復手術を受けた患者3000人のアンケート調査によるとかなりの高率で慢性疼痛の訴えがあり(36.7%)、中には日常生活に支障をきたすような激痛(6%)もあった。このような術後慢性疼痛の予防対策としてヘルニア手術の際に神経(腸骨そけい神経)を切断する方法、手術直後に局所神経ブロックを行う方法が試みられ、効果が見られたという報告と比較検討して差がなかったという報告もあり、明らかな有効性は認められていないようである。
 現在特に苦痛のない高齢者のそけいヘルニアは経過観察して、ヘルニアが還納できなくなった時には緊急手術が必要となるが、ヘルニア修復手術は患者本人の健康状態や生活態度によって適応が決められる。(SF



成人そけいヘルニア 修復手術 かんとん 慢性疼痛 SF36
(No058r;2009/02/13)

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