医療教育情報センター

No63 植物状態        

 目は開けているが、呼びかけても反応はなく、自分で食事ができないために、鼻腔あるいは腹壁を通して直接胃の中に水分・栄養を補給し、自分では動くことができないので床ずれが出来ないように時間おきに体位を変える必要があり、尿・便は失禁状態にある植物状態と言われる患者さんがいる。この状態で何年も経過すると回復の可能性がほとんど無くなり、いつまでケアを続けるのか、家族も医療関係者も悩むようになり、時にはマスコミの話題となる。2005年3月に米国大統領まで巻き込んで話題となったテリ・シャイボ事件は植物状態患者への水分・栄養補給の停止の是非をめぐる争いで、最終的にはそれを停止したことにより、14日後に患者さんは亡くなった。
 植物状態は脳の重篤な侵襲(外傷、低酸素、低血糖など)により脳全体の機能が停止して、集中的治療により脳幹機能は回復し自力で呼吸はできるようになっても、意識は回復しない状態で、脳機能が全て停止した脳死状態とは全く異なる。  このような状態は医学的にかなり以前から注目され、大脳死、認識死、新皮質死、遷延性昏睡、無意識覚醒、遷延性無意識、失外套症候群、無言性無動症、アルファー昏睡、昏睡後無覚醒状態などと言われていたが、1972年にジェネット(英国)とプラム(米国)が社会的に問題提起することも意識して遷延性(持続性)植物状態(Persistent vegetative state)(PVS)と言う名称を提案した。
 1972年日本では、当時交通事故による頭部外傷後に意識の回復しない患者が多発し、それを世話する家族が困っている状況を救済するために、脳神経外科学会が植物状態の判定基準を作成して政府に働きかけ、自動車賠償責任保険より家族に対して補償が出されるようになった。このような状態に対して植物症という名称も提案され、現在でも植物状態という用語を用いない医師もいる。また、遷延性意識障害について研究する学会もあり、2006年7月に大阪で開催された第15回意識障害学会では特別講演、シンポジウム、教育講演と一般演題で合計54題という多数の発表があった。この学会には意識障害患者家族の会のメンバーも参加し、家族の発表や医療者の発表に対する家族からの発言もあり、少なくとも植物状態に関心を持つ医療関係者にとって植物状態患者は尊厳死の対象ではなく、治療すべき患者として医療を行っている。また特別講演では、植物状態患者が夢を見ているのではないか、心をどのようにして判定するかなどの問題が提起された。日本人は心とか魂の存在を尊重して、意識の無い患者であっても人間として尊敬の念を持つと考えられている。また、植物状態患者は一様でなく、軽症から重篤まで程度の差があることが指摘され、治療効果を判定する際に注意しなければならないことが強調されていた。(SF)

(No063;2006/09/29)


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