医療教育情報センター

先制鎮痛(先取り鎮痛)

   元来痛みは生体にとって防御的な作用があり、身体内に潜む種々の疾患を発見する兆候として重視されてきたが、がん末期患者に見られる痛みはいつまで続くのかわからない慢性疼痛で、患者にとっても何のメリットもなく、その痛みを取るための努力がなされ、WHO方式癌疼痛治療法も出されている。
 外科手術後に患者は傷口の痛みを感じるが、時間が経過すれば消失するので外科医はこれまで余り関心を示してこなかった。外科手術あるいは外傷後の痛みは急性疼痛といわれ、痛むときに鎮痛剤投与で対処されてきたが、特に手術後の疼痛は患者の呼吸を抑制し、喀痰の排出を困難にして肺炎の誘因となり、血圧を上昇させ、免疫機構や創傷治癒にも影響を与えるなど種々の有害なストレスとなることが分かり、高齢者の術後早期離床を図るためにも、急性疼痛に対しても積極的な鎮痛が試みられるようになった。
 1988年Wallは「痛みが記憶されないように、痛み刺激の進入前に鎮痛処置をすれば、術後の痛みは抑制される」との考えからpre-emptive analgesia(先制鎮痛・先取り鎮痛)の概念を提唱し、1996年にKissinは「術後疼痛の防止または減少の目的で術前に鎮痛処置を施すこと」と定義している。侵害刺激(疼痛刺激)が加わる前に鎮痛処置を行った方が刺激後に行うより効果的であり、周術期(侵害刺激中)の鎮痛処置でもその術後の疼痛を抑制する。疼痛刺激は神経細胞において“刷り込まれ”記憶される現象(中枢性感作)と、C繊維より持続する侵害刺激は脊髄後角細胞において応答反応を増幅させる現象、すなわち記憶させず増幅させなければその後の疼痛は抑制されるという基礎事実に基づいている。
 鎮痛方法としては痛みの伝導路の種々の部位に作用する方法が試みられていて、局所麻酔薬の局所浸潤、神経ブロック、硬膜外ブロック、くも膜下ブロック、静脈内鎮痛剤、抗炎症薬などがある。
 最近、そけいヘルニアなどの外科手術後の患者のQOLを向上させるために術後の痛みを出来るだけ抑える必要があり、先制鎮痛が注目されている。(SF

(No064r;2009/08/28)


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