医療教育情報センター

No66 最近報道されている生体腎移植問題        

 腎臓の移植には死体腎移植と生体腎移植とがある。死体腎の移植は極めて少ない。日本では脳死問題が解決されているとは言えないからである。医学者の中でも脳死判定に反対の人もいる。腎臓は二つあり、一つが失われても死に至ることは無い。そこで生体腎移植が行われる。日本では腎臓を提供する人(ドナー)の多くは、提供される人(レシピエント)の血縁者である。血縁者は、拒絶反応の点からも望ましいが、腎臓を一つあげても子供や兄弟姉妹が助かって欲しいという強い願いと愛情があるからである。法的規制、学会の基準及び倫理性に欠けると、腎臓の売買が横行しかねない。発展途上国でこの問題が噂されるのはそのような背景があるからである。
 今回、報道されている問題は、ドナーとレシピエントとの間に血縁関係はなく、報道が正しければ、移植をした医師はの会員ではないという。従って、学会の基準に従う筈はない。しかし移植の症例数は多いという。移植された患者さん達は移植のお陰で透析を受けずに済み、生活の質は飛躍的に向上したであろうから、喜んでおられると思われる。しかし、問題はドナーの患者さん達である。それらの患者さんは(1)腎臓癌(腎臓癌には2種類あり、おそらくその内の腎細胞癌)、(2)腎良性腫瘍(おそらく血管・脂肪・平滑筋腫)、(3)腎動脈瘤、(4)ネフローゼ、と報道されている。「腎細胞癌」であれば、転移の危険性(肺、リンパ節、骨、肝など)は癌の大きさに比例すると言われている。癌の径が3cm以下では転移の頻度は低いという。腎細胞癌は癌であっても、その境界は比較的明瞭で、正常部との境がはっきりしているものが多い。症例によっては(癌が小さければ)腎臓の一部のみの切除で済んでしまう。大きな癌であれば、腎移植しても無駄であろう。「良性腫瘍」と術前に診断が付いていれば、腎臓を全部摘出する必要があったのか。術前の良性か悪性かの判断は正しかったのか。手術中に良・悪性の区別を迅速病理組織診断で確定できる。術中迅速病理診断を行なっていなかったのか。「腎動脈瘤」であれば、人工血管置換術で済んでいたのかも知れない。「ネフローゼ」は症候群であって、一つの病名ではない。慢性腎炎や糖尿病性腎症の或るタイプ、膜性腎症、子供に多い真性ネフローゼ、アミロイド症、腎静脈血栓症等、ネフローゼ症候群を引き起こす疾患は多い。医師であればネフローゼ症候群を呈した腎臓の基本疾患が何であるかを追及しなければならない。ネフローゼは両側腎臓が同時に冒されるので、摘出術の対象ではない。ドナーとなった患者さん達は腎臓に起こった自分の病気について充分納得した上で腎臓を提供したのであろうか。
手術数が多い程、良い外科医であるとするマスコミの報道は全て正しいのであろうか。誰しも、手術第1例を経験しなければ、多数の例を経験することは出来ない。それは良き医師育成のための教育の一ステップなのである。人間が「神の手」を持つことが出来るのか。出来ると考えるのは、不遜の態度である。医師・医学者は生命に対する畏敬の念や学問に対する尊崇の気持ちを持ち続けて欲しい。医師や医学生のために生涯教育への態度を醸成するためにはマイナスのテレビ番組や報道が多すぎる。マスコミは国民の教育に大きく影響していることに気づいていないらしい。(IS)

(No066;2006/11/13)


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