医療教育情報センター

No67 「異常死」の届出        

 医師は診療している患者が死亡した場合、あるいはすでに死亡している患者を診察した場合に「異常死」と判断すれば、医師法21条により24時間以内に警察の届け出なければならないことになっている。
 平成18年2月18日、福島県立大野病院の38歳の産婦人科医が県警に逮捕された。これは平成16年12月17日に帝王切開手術で多量出血により29歳の患者が死亡したことと、それを24時間以内に警察に届け出なかったことで、業務上過失致死と医師法違反に問われ、身柄を拘束された。
 また平成16年4月13日に最高裁判所は東京都立広尾病院の医療ミス隠し事件の判決で、自分が診療している患者でも死体に異常を認めた場合は、自分が業務上過失致死を問われる可能性があっても、24時間以内に届け出ることを求め、「公益上の高度の必要性に照らすと届け出義務を課すことは憲法に違反しない」との判断を示し、憲法38条1項で、自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障したことに反しないとされた。
 しかし異常死に関しての判断が法医学会と外科系学会との間でも異なり、「異常死」の届出に関して臨床の現場ではかなり混乱が生じている。
 日本法医学会が平成6年5月に発表した「異常死」ガイドラインのなかには、診療行為に関連した予期しない死亡、および疑いのあるものとして、「注射・麻酔・手術・検査・分娩などあらゆる診療行為中、または診療行為の比較的直後における予期しない死亡、診療行為自体が関与している可能性のある死亡、診療行為中または比較的直後の急死で、死因が不明の場合、診療行為の過誤や過失の有無は問わない」という項目がある。
 これに対して日本外科学会他10の外科系学会は平成13年4月10日に共同声明を出して、「外科手術において予期される合併症に伴う患者死亡は、不可避の危険性について患者の同意を得て、患者の救命・治療のために手術を行う外科医本来の正当な業務の結果として生じるものであり、このような患者死亡は「異常死」に該当しないことは明らかである」としている。
 届け出先が警察になっていて、警察では患者の死亡が医療過誤によるものか否かの判断はかなり高度な医学的判断が必要であり、過失を認めることは困難であると思われる。
 平成17年8月10日厚生労働省は「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を立ち上げ、実施主体は日本内科学会として、モデル地区として東京都、大阪市、愛知県、兵庫県の4箇所で平成17年9月1日から開始されている。事業の要旨として「医療の質と安全を高めていくためには、診療行為に関連した死亡について解剖所見に基づいた正確な死因の究明と、診療内容に関する専門的な調査分析とに基づき、診療上の問題点と死亡との因果関係とともに、同様の事例の再発を防止するための方策が専門的・学際的に検討され、広く改善が図られていることが肝要である」としている。
 平成18年11月25日国学院大学で開催された第36回日本医事法学会研究大会のワークショップ「医療事故調査のあり方をめぐって」でも、医師法21条の問題を含め医療事故に関する議論があり、いろいろ複雑な問題があることが明らかにされたが、早急にこの問題が解決され臨床の現場の医師が安心して、最善の医療を行うことができるようになることが望まれる。(SF)

(No067;2006/12/11)


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