医療教育情報センター

機能性身体症候群

 近年、機能性身体症候群 Functional Somatic Syndrome(FSS)という新しい疾患概念が提唱された(Wessely、1999)。これは適切な診察や検査を行っても、器質的疾患(病理学的所見の認められる疾患)の存在を明確に説明できない病態と定義されている。以前より医学的に説明できない身体症状は、medically unexplained symptoms (MUS)として知られていた。その症状の主なものとして疲労感、頭痛、関節痛、筋肉痛、動悸、めまい、腹痛、下痢などが挙げられている。
 日常診療でこうした病因不明の症状の頻度は、関節痛 37%、背部痛 32%、疲労感 25%、頭痛 25%、腹痛 24%、めまい 23%といわれている (Kroenke、1993)。勿論、こうした症状の中には器質的疾患をもっている人もいるから十分な検査が必要であるが、いくら検査をしてもどこも異常が見つからない症状をMUSと呼んでいた。
 MUSは、どの診療科領域でも古くから知られていた。例えば消化器系では過敏性腸症候群(IBS)、呼吸器系では過換気症候群、神経系では緊張型頭痛、リウマチ系では線維筋痛症(FM)、感染症では慢性疲労症候群(CFS)、アレルギー系では多種化学物質過敏症(MCS)、婦人科系では月経前症候群、歯科では顎関節症などである。これをひとまとめにしてFSSと呼ぼうというのである。

 FSSを一つの疾患概念として捉えた理由は次の点である。
 @ 各疾患の診断基準が類似し、共通する症状が多い。
 A FSSのある疾患はFSSの他の疾患の診断基準を満たす。
 B FSSでは疾患の間に合併が認められる。例えばCFSの60%はIBSを合併し、FMの75%は顎関節症を合併する。
 C 抑うつ、不安などの精神症状を高率に伴う。
 D 患者は女性に多い。
 E 医師との人間関係が難しい。
 F 同じ治療に反応する。

 確かに身体的所見が見当たらず、臨床検査、X線、CTなどに異常がなく、病理学的にも変化の認められないこれら一連の疾患を一括するという考え方は一見妥当と思えるが、これに反論する学者もいる。すなわち「病気」の定義を病理学的形態異常のみで論じてきたことに問題があるというのである(Yunus,2008)。例えば「痛み」とか「だるさ」という症状には形態的異常の証拠は得られない。しかし神経・内分泌・免疫系の異常が関与していることは、最近の研究で明らかにされてきた。今後、神経系なら神経ペプチドや脳内活動、内分泌系なら視床下部、下垂体、副腎皮質系ホルモン、免疫系ならTリンパ球やサイトカインなどを指標とすることが出来れば、器質的疾患、機能的疾患の区別をしなくても済むようになるかもしれない。(NH

(No067r;2009/11/27)


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