医療教育情報センター

No68 慢性疲労症候群・診断基準の改定について        

 慢性疲労症候群 Chronic Fatigue Syndrome(CFS)は、その名の通り、激しい「だるさ」を主症状とし、他に微熱、咽頭痛、関節痛、筋痛など多彩な臨床症状をもつ1つの症候群である。特徴的なことはこうした身体症状の他に、思考力低下、集中力低下、うつ状態、睡眠障害などの精神症状を伴うことである。
 この病気が近年注目されたのは、1984年(昭和59年)米国ネバダ州のある町でこの病気が集団発生したことが契機となって米国防疫センター(CDC)が調査したことによる。このときは一旦、EBウイルスが原因ではないかと考えられたが、さらなる精力的な研究によってEBウイルスは否定された。現在のところ、原因となる責任ウイルスは見つかっていないが、ストレスと免疫機能の低下などが関係して、何んらかのウイルス感染が関与しているのではないかと考えられている。
 しかし、CFSという病名は確かに新しく登場したが、実は類似の病気は古くから存在していた。もっとも古い記録によると、約250年前の1750年に「微熱症」という病名で英国のマニンガム卿が微熱、だるさ、体の痛みなどを報告している。その後、1869年に米国のバードという医師が「神経衰弱」neurastheniaという病気を発表した。この病気もCFSと同じような症状を有し、長い間、医学の世界ではポピュラーな病気として存在していた。現在でも世界保健機関(WHO)の定めた国際疾病分類(ICD−10)には、この病気の記載があるが、実際に臨床の現場で「神経衰弱」という病名を用いる医師はほとんどいなくなった。
 このようなとき、CFSが登場したため、一部の研究者からは、「新しいボトルに入った古いワイン」、つまり神経衰弱という 病気がCFSというラベルに貼り代えられたのではないかと言われた。
 しかし、原因不明の激しい「だるさ」が持続する病気は確かに存在し、それに悩む患者が多いことは事実である。しかもこの病気の本態が不明であるだけに治療法もまだ確立されていない。
 そこで世界中の研究者がCFSの本態解明に全力をあげており、わが国でも日本疲労学会の慢性疲労症候群分科会が検討を続けている。喫緊の課題として先づ行わねばならないのがCFSを精確に診断することである。現在世界で広く用いられている診断基準は米国CDCが1994年に作成したものであるが、これは1988年版を大幅に改定している。しかしわが国では厚生省(当時)CFS研究班が、米国の1988年版を翻訳して参考にしたものが、1992年に発表され、現在でもそれを用いているのである。
 CFSに関する研究は進み、英国、カナダ、オーストラリアなどでは米国の1994年版をさらに修正している。
 そこでわが国でも新しい知見をとり入れて、国際的にも通用する新しいCFS診断基準の改定作業が始まった。CFSは、患者の「臨床症候」を適確に捉えることが大切であり、また「神経・内分泌・代謝」系が関係し、さらに「感染・免疫」系も関与しているので、新しい診断基準は、この3つの分野からの検討が進められている。平成19年6月には、その試案が完成し、一般臨床に適用できるものと思われる。(NH

(No068;2006/12/25)


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