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メデイカルツーリズム ―「医は仁術」はどこへ行くのか―

 メデイカルツーリズムとは海外の富裕層に日本の観光を楽しんでもらうと同時に質の高い日本の医療を受けてもらうという日本政府が考えた外貨獲得の政策である。わが国の質の高い健診や治療と日本の美しい観光を結びつけ、一つの商品パッケージとして海外の金持ちに販売して、新しい経済戦略にしようというのである。
 平成21年12月、鳩山内閣は「新成長戦略」を閣議決定し、その中で観光戦略を一つの柱とした。このとき経済産業省は米国、インドなどで流行し始めているメデイカルツーリズムを日本にも導入し、外貨獲得に一役買おうと考えた。
 本年2月、経産省はこれを試験的に行うこととし、日本の病院で健診を希望する外国人24人を受け入れ、日本でのメデイカルツーリズムの実施可能性を探った。実施に手を挙げた病院は全日本病院協会傘下の11病院であったが、これに観光業のJTB、大手商事会社などが参画した。
 ここで問題となるのは、医療を外貨獲得という営利を目的とした市場に曝すということである。メデイカルツーリズムで受診する外国人観光客は現金やクレジットカードで支払うから、請け負う病院も現金収入という儲けに繋がる。そのため日本の医療が大切に守ってきた国民皆保険制度の患者より自由に価格を設定した自費のメデイカルツーリズム観光客を優先的に診る病院が現れる可能性が出てくることが危惧される。
 医療は市場原理下のビジネスではない。メデイカルツーリズムの先進国である米国やインドでは既に問題点が発生している。米国は公的医療保険がなく、高額な自費診療が行われているが、2006年にメデイカルツーリズムで国外に渡航した人は15万人、翌年は30万人と倍増している。国内での治療費が6,000ドルを超えるなら外国で医療を受けた方が「得」といわれているが、質の高い医療を受けてきたというデータはない。インドの国民層は2極化しており、医療の恩恵を受けているのは国内の限られた数の富裕層と海外からのメデイカルツーリストだけである。国内の貧困層は自国の医療を受けることも出来ず、政府はメデイカルツーリストを受け入れる医療機関を助成して外貨獲得に躍起になっている。
 翻ってわが国では、医師不足、医療崩壊などと言われている現在、海外の富裕層に医療を提供するなどということは考えられない発想である。経産省は「産業発展の契機になり、経済の活性化に繋がる」と主張しているが、拝金主義の経済優先も甚だしい。メデイカルツーリズムを受け入れる病院も「中国の富裕層を対象にする」と豪語しているが、秋葉原の家電製品の販売と間違えているのではないか。「医は仁術」はどこへ行ったのか、悲しい限りである。
 日本医師会はこれに反対しているし、一部経済学者も「経済の活性化には繋がらない」とし、「国内での格差、対立を生む可能性が大きい」と警告している。(NH

(No072r;2010/06/04)


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