医療教育情報センター

がんの在宅ホスピス

 『あなたもわたしも仕事が終われば家へ帰る。それと同じように人生という仕事が終わる時は家に帰ろう。』これは兵庫県尼崎市にある「おかえりなさい」プロジェクト事務局(06-6431-5555)が出版している冊子『あなたの家にかえろう』のサブタイトルである。
 「根本的に病気を治す方法はもうない」と医師に言われてしまった人たちを見捨てず、病む人がその人らしく最期まで生きることを手伝うのがホスピス運動であるが、残された時間を自分らしく生きていくことを“家でもできる”ようにするのが在宅ホスピスケアである。
 在宅医、訪問看護師、ホームヘルパー、ケアマネジヤーなどがチームを組んで、この在宅ホスピスケアを実践している人たちが、「住み慣れたところで最期まで」と願う人たちのために具体的に書かれた「道しるべ」がこの冊子である。
 しかしながら、「病院から家に帰りたい、帰したい」と思っても、本当に可能なのか不安や疑問を抱く人が多いに違いない。現代は家で看取るということが、ほとんどなくなってしまい、看取り方を知らない。家族に迷惑をかけたくない。独り暮らしの場合はどうなるのか。往診してくれる医師はいるのか。緊急時の対処方法はあるのか等々。
 ところが、本年3月、奈良県在宅ホスピス研究会主催で開催された市民公開講座「もしがんになったら、あなたは人生の最後をどこで迎えますか?」杉山正智医師(ひばりメディカルクリニック院長)を聴講し、“目からウロコ”の思いがした。
 ひばりメディカルクリニックは在宅ホスピスケアを標榜して10年前にスタートしたが、平成15年8月〜20年2月の間に、末期がん1004名を診療。死亡925名の打ち分けは、在宅死657名(71%)、施設死268名(29%)であった。これは全国3位の実績である。
 がんの場合、平均ケア日数は69日であるが、寝付いて介護が必要なのは2週間であった。在宅ケアになっても予想された余命よりも長く生きるのが普通であり、亡くなる直前まで自分の好きなことをし、家族との生活を楽しんでいた。独り暮らしの場合も課題はあるが在宅ホスピスケアは可能であった。
 施設のホスピスでは患者が亡くなった後、遺族の精神的ケアが必要と言われているが、在宅ホスピスケアの場合は、遺族会に入る人はいないとのことである。これは、家族が最期まで患者に付き添い、「やることはやった」という満足感があるためではないかと杉山医師は述べている。
 在宅ホスピスケアを希望する場合は、いろいろ先のことを心配するよりも、一番、鍵となるのは本人が“覚悟”を決め、「家に帰りたい」という意思を周囲に明らかにすることである。これが出発点となり、いろいろ相談しているうちに道は拓けてくるようである。
 参考になる図書として、先に紹介した冊子の著者の一人である吉田利康による『がんの在宅ホスピスケアガイド』(日本評論社 2007)を薦めたい。患者や家族の身になって非常にきめ細かく書かれている。いろいろな相談窓口も紹介されているが、往診してくれる医師については、先に本欄(新しい診療理念 No22r;2005/08/29 在宅ホスピス)で紹介した 「末期がんの方の在宅ケアデータベース」が役に立つ。(TI

(No073r;2010/07/05)


在宅ホスピスケア 奈良県在宅ホスピス研究会 ひばりメディカルクリニック 末期がん 末期がんの方の在宅ケアデータベース 

新しい診療理念・バックナンバー