医療教育情報センター

No76 「総合科」の新設について        

 厚生労働省は医療機関が標榜できる診療科の種類を削減することを医道審議会に提示した。現行の医療法で認められている診療科名は、歯科を除いた医科については33もある。これを基本的な領域の診療科として20に限定し、専門性の高い診療科は併記することにするという。今回、基本的な領域の診療科の中に「総合科」を新設したことは注目すべきことである。
 かつて診療科は内科、外科、眼科、耳鼻咽喉科など15種類であった。それが医学の専門分化によって循環器科、呼吸器科、消化器科などの診療科が新設され、それが混在するに至った。高度な専門診療科が大病院にあることは当然であっても、初期診療の段階、つまり最初に受診する医療機関ではむしろ患者は混乱しかねない。
 わが国の医療提供システムは、かねてから問題とされてきた。患者も最初の段階から専門診療科受診を好み、それが大病院志向に繋ったといえる。たとえば胸痛が心臓なのか、呼吸器なのかは先ず広い領域の知識をもった医師が診ることが望ましい。その意味で初期(一次)医療、二次医療、高次医療と医療提供体制を患者にとって分りやすいものに再構築することは必要である。
 今回の診療科名標榜の見直しと「総合科」新設はその意味で注目すべきことである。そこで「総合科」に関して、次の問題点を提起したい。
(1)「総合科」という名称でよいのか。
 診療科名は患者からみて分り易くなければならない。一方、現在の医学界では、「総合科」に類する言葉として「総合診療医」、「総合内科医」、「プライマリケア医」、「家庭医」という名称が乱立している。それぞれの名称をもった学会も独立して存在している。しかもそれぞれの診療医は微妙にその守備範囲に差があることを自認している。そうした中で今度「総合科」という名称を国が作ったとき、「総合医」の専門性の認定を誰がどのように行うのか。
 とくにわが国では「」という名称をかつて日本医師会が反対して使用できなかったという過去の歴史を引きずっている。アメリカでは「家庭医」の専門医としての認定は学会が行っている。「総合科」を標榜できる医師の認定をどうするか、厚労省素案によると当面は国が行うとあるが、これではプロフェッショナルオートノミーは損なわれ、また反対が起こるだろう。
(2)「総合科」の診療内容は「総合内科」ではないのか。
 医学界が専門診療科に細分化されていく中で、「臓器を見て人間を見ない」という批判が起こり、約15年くらい前から総合診療に対する関心が高まったことは確かである。大学病院でも「総合診療部」が新設され、講座教授も置かれるようになった。平成16年から始まった臨床研修もプライマリケア重視となったから、この先10年後には、確実に「総合診療」を身につけた医師は育ってくるだろう。それにしても人間の体を広く診るのは内科であり、それも総合内科(一般内科)である。ただ漠然と「総合的に診れる医師」というような診療科であってはならない。このことを認識した上で制度を施行しないと、新しい「総合科」は機能しないだろう。
(3)既存の診療科名標榜医をどうするのか。
 初期診療において幅広く対応できる医師を「総合医」とすると、現在開業している内科医、小児科医には適用できても、眼科、耳鼻科、整形外科などはどうするのか。これは「総合科」ではない。既存の専門単科の医師についても「一般的な広い分野の医療を診る」と称して「総合医」の対象に含めるとしたら、これまでと全く変らない。眞の総合診療の質の担保をどうするか、十分な議論が必要である。従来の大学病院医局でストレート研修のあと、専門診療のみに従事してきた医師は、眞の意味の総合診療は出来ない筈である。こうした点について十分検討した上で実施しないと、かつての「家庭医」問題の二の舞になりかねない。(NH)

(No076;2007/06/01)


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