医療教育情報センター

No79 医療版「事故調査委員会」

 「医療事故が起きたら、医療機関はその原因を調べ、結果を患者・家族に説明する。こんな当たり前のことが実際にはきちんと行われてこなかった。隠蔽を図る病院もあり、国民の医療不信を招いた。そこで刑事司法が積極的に動いた。医師に対して弱い立場にある患者・家族には心強い存在で、医療の透明性を確保する力をもつ。しかし、欠点もある。(樋口範雄東大大学院教授)」(朝日新聞6月10日朝刊)
 厚労省は2007年4月20日に有識者による「死因究明等のあり方に関する検討会」を開催して、調査専門機関の早期創設に意欲を示した。それより前の2005年9月には死因究明制度の創設に向けたモデル事業が開始されているが、これは日本内科学会が実施主体となり38医学会が参加、厚労省と協力して運営される。まず、遺族の同意を受けた医療機関から調査依頼を受けると、総合調整医が事業の対象となるかを検討して、法医、病理医、臨床立会医により解剖が実施される。臨床評価医が解剖結果と医療機関から提出された資料を基に評価結果報告書案を作成し、これを地域評価委員会で最終的に取りまとめる。評価委員会の委員長と臨床評価医が遺族と医療機関に結果を説明したあと、遺族の同意のもと、ホームページで報告書の概要を公表する。平成19年4月の時点で受理件数は51件で、報告書の完成したのは21件となっている。これはあくまでもモデル事業であって、現実に発生している医療事故全体の解決には程遠いといわざるを得ない。
 1999年に米国の医学研究所(IOM)が公表した「To err is human」(人は誰でも間違えるーより安全な医療システムを目指して)(日本評論社2000年)で医療の現場で発生する医療事故の実態が明らかにされ、世間に衝撃を与えたが、R.M.ワクターとK.G.ショジャニアは「新たな疫病:医療過誤(Internal Bleeding)」(2007年)の中で米国の医療事故の実情を具体例で示して紹介し、その原因や解決策も提示され、医療訴訟だけでは医療事故を防ぐことはできないことが強調されている。
 医療事故に会われた本人・家族の願いとして、@原状回復、A真相究明、B反省謝罪、C再発防止、D損害賠償の5つが挙げられていて、これらの全てを一気に解決するのは困難であるが、事故発生時の当事者の初期対応がその後の対応に大きく影響するものと考えられる。そのためには、2006年に公表されたハーバード大学病院の「医療事故:真実説明・謝罪マニュアルー本当のことを話して、謝りましょう」が参考になる。
 医療担当者がもし医療事故と思われる状況に遭遇したときには、医療者は現実を正確に把握し、本人・家族には分かっていることの事実を正確に伝え、分かっていない事は分からないとして、今後原因究明に当たる事を保障することが大切で、中途半端な推測は避けるべきである。そして、患者に障害が起こったことに対しては謝罪すべきである。
 医療事故は患者・家族にとっても、また医療者にとっても不幸な出来事であり、出来る限り事故が起こらないように努めるべきである。「事故調査会」もその対策の一つであるが、日常の診療の現場で、たとえ些細なインシデント、アクシデントであっても、それらの原因を究明して、対応策を立てるリスクマネージメントを行うことを徹底しなければならない。(SF) 

(No079;2007/07/20)


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