医療教育情報センター

No80 親が拒否しても子どもの輸血は可


 近年、医療の現場では、インフオームド・コンセントという考えは定着してきており、日常診療において、患者の自己決定権が尊重されている。その中でしばしば問題となっていたのは、信仰上の理由で輸血を拒否する「エホバの証人」信者への輸血の場合であった。
   平成10年2月9日、東京高裁は、63歳女性が「死んでも輸血はしない」と拒否したにも拘わらず、大量出血のため輸血したと、国と医師に「同意なき輸血は違法」と損害賠償を求める判決を言い渡した。平成12年には最高裁でも同様判決があり、本年6月には大阪の某私立医大で信者の妊婦が大量出血したが、本人の意向で輸血できず死亡した。
 こうした事例はすべて成人であり、本人の意思であるからやむを得ないことであるとし、そのために患者が死亡しても医師は法的責任は問われないとされてきた。しかし患者が子どもで、輸血が救命に欠くことができない場合、子どもは基本的には親と別の人格であるから、子どもに医療を受ける機会を奪うのは児童虐待の一つに相当するという司法判断が登場するようになってきた。現に一昨年、宗教上の理由で子どもの輸血を拒否した両親に対して、大阪家裁は「親権の乱用」と判断して親権の一時停止の保全処分を行った。
 こうしたことについて輸血関連5学会の合同委員会では、たとえ親が信仰上の理由で輸血を拒否しても治療上必要があれば輸血を行う、という指針を発表した。輸血関連5学会とは、日本輸血・細胞治療学会、日本外科学会、日本小児科学会、日本麻酔科学会、日本産科婦人科学会である。
 輸血の何たるかも知らない、しかも自分で決める判断能力の未熟な子どもに輸血をしないで尊い生命を失うことは医師として耐え難いことであったが、今回の学会指針により医療現場に「救命尊重」を優先したことは評価される。(NH)

(No080;2007/07/30)


医療ニュース・バックナンバー