医療教育情報センター

震災時の心のケア

 東日本大地震と津波の被害は、被災者に大きな心理的負担を与えた。家族に犠牲者がでたり、家財を失ったことのつらさや悲しみ(悲嘆反応)、自分だけが生き残ったことや適切に振る舞えなかったことへの負い目の気持ち(サバイバーズ・ギルト:生存者の罪責)、さらに災害後の新しい生活環境や将来の生活の不安は、日常生活を行う上で、大きなストレスをもたらす。また目の前で人や車、家などが跡形もなく流され、町全体が崩壊していく悲惨な光景を目撃したり、地震や火災の体験が、フラッシュバック(自分の意志とは無関係に記憶が突然「侵入」してくる)のようによみがえることもある。このような体験に遭遇すると、多くの人は心に傷を抱える。心の傷は「心的外傷」または「トラウマ」と呼ばれている。これらによる精神的な変化してよくみられる症状には、茫然自失、気持ちの落ち込み、意欲の低下、不眠、食欲不振、涙もろさ、いらだちやすさ、集中力の低下、記憶力の低下などがある。症状の多くは一時的なもので自然に回復するが(阪神・淡路大震災の仮設住宅居住者と消防隊員の調査では、約80%に自然回復が見られたと報告されている)、長期化することもある。症状の程度や持続期間によっては、うつ病や「心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic stress disorder:PTSD)などの精神疾患の診断がつくこともある。またこれらの症状とともに、自殺や事故、飲酒や喫煙の増加、家庭内や地域社会での不和などが生じることが報告されている。
 災害時の心のケアの目的は、地域住民(集団)のストレスと心的外傷を減少させることである。支援者への対応のポイントは、共感と気遣いに満ちた支援である。これらは、初期反応の苦しみを和らげ、被災者の回復を助ける。具体的には、顔と顔を合わせて言葉を交わすこと、被災者が体験を話し始めたら、相手の話のペースにあわせて、黙って耳を傾けることである。その際に留意することは、被災者が体験したことを思い込みで決めつけない、わかったつもりにならない、憶測をしない、被災体験の詳細を質問するのは避けることなどである。また安易なあいづち、慰め、励ましは禁物である。たとえば次のような言葉は禁物である。「お気持ちはよくわかります」「前向きに頑張りましょう」「希望を持ちましょう」「時間がたてば和らぎますよ」「リラックスしなくてはなりません」「悲しいときは、悲しまないといけません」「耐えられないようなことは、起こらないものです」。被災者自身がこのようなことを言った場合には、その人の気持ちや考え方を尊重し、受け入れることが大切である。被災地では、直ちに医療処置ができない場合が多い。苦しいときには、電話による相談などを利用することを伝え、精神的支援が続けられることを確認する。
 このような活動を十分行うことは、PTSDなどの精神疾患の予防にもつながっていく。さらには住民一人一人と支援者が接すること自体が、住民全体についての不安の軽減につながり、安心感をもたらすこととなる。(EN

(No083r;2011/06/15)


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