医療教育情報センター

No87 小児科医や産婦人科医は何故足りなくなったのか

  根本的には、日本には全国的に統合された適正な専門医制度が無いこと、日本の医療経済は国家統制経済であること、日本人は歴史的に国家機関が制度を制定するものであるとの国民的常識があること、の3点に絞られよう。  沢山の学会が専門医制度をつくっているが、日本では各学会個別の私的制度である。日本では毎年約8000名の新しい医師が参入する。2年の研修医期間が終了すると、どの専門診療分野に進むかを決定するのは、本人達の意思である。言ってみれば勝手放題である。だから、いつ呼び出されるか分らない夜間当直の多い、そして患者さんやその家族から医療過誤ではないかと訴えられるリスクの多い診療科を忌避するのは、致し方がない面がある。しかし、これでは日本の医学の進歩や医療の質向上は覚束ない。若い人が入らないと、その科はさらに人員不足に拍車がかかり、労働基準法をとっくに逸脱している勤務状態となる。殆ど眠らない宿直をして、その翌日もフルに働く。それに対して感謝の気持ちを吐露する日本人は激減した。しかし医師はいつでも、どこでも病人の求めがあれば、直ぐに対応しなければならない。医科大学ではそのような医師になるように教育している。 アメリカでは毎年、内科になる人は何名、外科は何名….と、全米での大よその数が決まっている。日本ではどのような専門医がどの位必要になるかとの観点から、各専門医の数を決める制度は全く無い。その制度を創るのは厚生労働省であると多くの人は思っているらしい。しかしこれは官僚統制を以って是とする思想である。アメリカの専門医はアメリカ連邦政府が決めているのではない。アメリカ医師会、医科大学連盟などから成る民間機関の協議で決められている。医師の質の保持、向上も自らの団体が行なっていて、一定以上の能力を持たない医師を仲間から外す自律的な制度である。 アメリカでは国民のうち、約4700万人が健康保険に加入していないという。非加入者が病気になれば、医療費は自費である。日本は国民皆保険制度という世界に冠たる制度を持っている。いつでも、どこでも、誰でも、世界的に見ればかなり少額の自己負担で、質の高い医療を受けられる国である。東欧の国々が未だ共産国であった頃、日本の医療制度を調査に来て、理想的な共産主義体制が東洋の一島国で施行されていると驚嘆したという記事を読んだことがある。日本のこの健康保険制度による診療報酬は、医師としての能力を評価対象としていない。研修を終了したばかりの医師と、その医師を教育した熟練医師に対する診療報酬は同額である。小児科医が不足しているから、小児科の診療報酬を上げようということが議論されているが、これは小児科医個別の能力を観ているのではない。小児科医になるように若い医師をお金で釣ろうとすれば、モラルが下がることに気付かないらしい。(IS)

(No087;2007/11/09)


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