医療教育情報センター

重症精神障害者への在宅訪問支援(ACTプログラム)

 日本の精神科病床が他の疾患と大きく異なる点は、在院日数の長さである。厚生労働省の調査によると、2 0 0 7 年における一般病床の平均在院日数が34日であるのに対し、精神病床は3 1 7 日である。これは患者一人あたりの病院のスタッフ数が少ないこともあるかもしれないが、適正な治療を受けているか検証されることもなく、“隔離”されていることを暗に示しているともいえる。  一方、平均在院日数を外国と比較すると、韓国89日、イギリス58日、ドイツ21日であり、アメリカにいたってはわずか8日である。これは1960年代以降、欧米においては、精神障害者を精神病院へ長期収容することは精神疾患からの回復を妨げ、精神障害者の市民としての権利を侵害することになるという反省から、精神病院を縮小あるいは廃止し、地域での医療やリハビリテーションを重視する脱入院化施策がとられたことがある。この施策の実施を可能にしたのは、ACTプログラムである。
 ACTとは、assertive community treatmentの頭文字をとったもので、日本では「包括型地域生活支援」と訳されている。重い精神障害を抱えて入院を繰り返す人や、長期入院を余儀なくされていた人々が病院の外でうまく暮らしていけるように、様々な職種の専門家から構成されるチームが援助する精神医療・福祉の仕組みである。その最大の特徴は、利用者の生活現場に出向いて提供する訪問型のサービスである。
 ACTは、1970年代にアメリカで始まり、脱病院化の条件としてのACTの有効性が認められ、カナダ、英国、スエーデン、オーストラリア、ニュージーランド、デンマーク、フィンランド、オランダなどで導入されている。
 日本では2003年に国立精神・神経センターのある千葉県国府台地区で試みられたのが最初で、2004年から京都市で高木俊介氏(たかぎクリニック院長)が本格的に取り組み、今日までにACTのモデルとなる実績をあげている。その概要は以下の通りである。
 重症の精神障害で、密接な支援がないと生活しにくい人に、自分が住んでいる場所でそのまま暮らしてもらうために援助する。精神科医、看護師、介護福祉士、作業療法士、ソーシャルワーカー、ピア・カウンセラーなど医療と福祉のいろいろな職種の人が生活の場に出かけていくのが特徴で、夜中のオンコールもある24時間365日対応のシステムをとっている。アクトK(京都)と名づけ、主として統合失調症の人を対象にしている。
 このプランを実施するにあたっては、生じうるトラブルや経営の面から二の足を踏むことが多いわが国において、机上の空論でなく立派に実践している意義は大きい。いまなお、精神病院大国である日本において差別や偏見をなくし、精神障害者が人間としての尊厳をもって自分らしく生きられる社会に変わるきっかけになることを願いたい。(TI
【参考】高木俊介『ACT-Kの挑戦 ACTが開く精神医療・福祉の世界』(批評社、2008)

(No091r;2012/02/10)


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