医療教育情報センター

Anti-ageingか、Healthy ageingか

 昨年 (2011年) 6月18日(土)に当センタ−主催の公開シンポジウムが開催された。その時の主題は『「老い」を防ぐ−アンチエイジングの医学−』であった。その際のミニ講演の折にも感じたので、今この文章を書いている。
 アンチは、「反対」或いは「抗する」という意味で、エイジングは時間と共に年をとると言うことである。人間は一年経てば一歳、誰でも年をとる。だからアンチエイジングとは、本来無理なことだと思う。赤血球の寿命は約120日と言われている。いま持っている赤血球は赤ん坊の時の赤血球ではない。
 遺伝子のなかにtelomereというもがある。telは遠隔という意味で、電話telephoneは遠くでも音(phone)で交信が出来るものである。Telomereのmereは「節」という意味である。遺伝子の一番端っこにある「節」のことで、それは時間とともに短くなり、細胞は寿命がきて、病気でなくとも自然の死を迎える。これを遺伝子の中に「プログラムされた細胞の死」或いはアポトーシスapotosisと呼んでいる。
 anti−ageingは言葉の意味からすると無理なことなのである。Healthy ageing(健康的に老いを迎えよう)という発想が、国際動脈硬化学会International Symposium on Atherosclerosisなどで起こっている。小学校の同級生達を見れば、若く見える人、或いは老けて見える人がいる。暦の年齢と生理的年齢とは異なる。年齢を重ねても病気になるのを防ぎ、心身ともに元気でより長生きしょうということである。
 中年以降で最も多い病気は癌と動脈硬化による病気である。ここでは後者の動脈硬化について述べる。他の病気で亡くなった子供や若者の病理解剖をすると動脈硬化の初期変化をしばしば見つける。即ち若者にも動脈硬化症は始まっている。一方ではよい生活態度を続ければ軽快することも証明されている。進行中の潜在性の時期には症状はない。動脈に血栓が出来たりすると、閉塞し、臓器の一部が壊死に陥る。壊死はアポトーシスとは異なり病的な細胞・組織の死である。即ち無理に殺されたのである。冠動脈に起これば心筋梗塞、脳の動脈に起これば脳梗塞がその代表である。下肢の動脈に起こると足の壊疽が生じる。大動脈では粥状硬化の部分の弾力性が失われ、動脈の壁は外方に突出し、これを大動脈瘤という。これが突然破れて大出血を起こし、死に至ることもある怖い病気である。細い動脈にも硬化は起こる。壁が厚くなり内腔は狭くなる。内腔が狭くなると、血圧は高くなる。
 動脈硬化の成因は多数ある。それらを列挙すると、加齢、男性、喫煙、糖尿病、高血圧、通風、責任の重い立場の人、動物性食肉(ビーフステーキ等)、血中の高いコレステロール、高い中性脂肪、高い低比重リポ蛋白(悪玉コレステロール)、低い高比重リポ蛋白(善玉)や飽和脂肪酸などである。女性ホルモンは抑制的に働くが、閉経期以降は男性と同じように動脈硬化性疾患は増える。魚、特に青い皮の魚はEPAやDHAなどの脂肪酸が多く、赤ワインなどはポリフェノールが多く動脈硬化を抑制する。今からでも遅くはない。頭の運動も含めて適度の運動、禁煙、和食中心(野菜、穀物、魚)、減塩(漬物やお味噌汁は少なく)、糖尿病や高血圧のコントロール、そしてユ−モアのセンスを磨き「他人に優しく」を心がけると精神的ストレスが緩和され、healthy ageingが期待できるであろう。(IS) 

(No092r;2012/03/09)


加齢 アポトーシス 壊死 動脈硬化 エイジング

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