医療教育情報センター

がん患者の就労支援

 がんのイメージが大きく変わりつつある。以前はがんと言えば死を連想する急性の疾患であった。何を差し置いても入院し治療を最優先していた。ところが最近は、5年生存率が50%を超え、患者のQOLにも配慮しつつ、入院と外来通院を併用しながら治療し、長く付き合う慢性の病気になってきたと言える。
 一方、発症年齢についてみると、働く世代(16歳−65歳)では、毎年約22万人のがん患者が発生しており、がんの治療と働くことを両立させる就労支援が課題となってきた(週刊医学界新聞 2988号 2012)。実際、2012年から始まる第二期のがん対策推進基本計画案にも、「働く世代や小児へのがん対策の充実」という言葉が盛り込まれた。
 がんの治療は、手術、抗がん剤による治療、放射線治療の三大療法が中心となるが、原則として入院が必要となる手術を除いて、後二者が治療を受けながら仕事ができるかどうかということになる。患者にとって仕事に差し支える副作用としては、耐えられない倦怠感、仕事に対する集中力の低下、吐き気や腹痛などの消化器症状、抑うつ等がある。
 医療者側からみれば、“がんだから……”を免罪符として、がんだけを標的として治療するのではなく、がん患者の身体的、精神心理的、社会的側面を含めて全人的に取り組むことが求められることになる。
 がんが治ってから働くのではなく、働くこと自体が患者の生き甲斐であったり、働くことで社会における役割を見いだすアイデンティティとなっている場合は、働きながらがんの治療を受けることは、がんにもプラスの影響を与えるという報告もある。
 特異な例と言い切れない実例として、現役銀行マンが大腸がんになり、16年間にわたって大腸がん2回、転移性肝臓がん2回、転移性肺がん3回、手術を受けながら治癒に漕ぎつけた例がある。これには本人の生きる意欲と仕事に対する情熱もさることながら、入院期間を最短にしながら、治療と仕事の両立をサポートした医療者の存在があった。こういう就労支援が可能であることを示した意義は大きい(関原健夫:がん六回 人生全快. 朝日新聞社 2001)。
 実際に就労支援に取り組むとなると課題が山積しているが、大津眞弓氏らは、厚生労働科学研究プロジェクトの一環として臨床現場でがん患者の就労支援に積極的に取り組む治療医へのインタビューを実施し、「就労支援の5つのポイント」をまとめている。 @患者さんの仕事に関する情報を十分に集める。A患者さんの悩みに対して、医療職が幅広くサポートする。B患者さんの希望に応じて受診や治療ができるように配慮する。C仕事を継続しながら治療ができるよう、治療による仕事への影響について十分に説明する。Dスムーズに職場に復帰できるような工夫や職場(上司や同僚)の理解を得るためのアドバイスをする。
http://www.cancer-work.jp/wp-content/uploads/2011/10/5point.pdf
 チーム医療が原則になっている現在でも、医師の果たす役割は大きい。まず、医師が「治療しながら働きたい患者さんがいることを認識し、仕事と治療の両立を支援する」ことを決意する意識改革が何よりも重要ではないか。(TI

(No096r;2012/08/24)


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