医療教育情報センター

No104 産科医無罪

 福島県立大野病院で04年12月17日、帝王切開手術を受けた29歳の女性が死亡し、外部の専門家による県の医療事故調査委員会が執刀医の判断の誤りを認める報告書を作成したのをきっかけに、福島県警が06年2月に医師を逮捕した。08年8月20日福島地裁は、胎盤剥離(はくり)を続け帝王切開が遅れたとの業務上過失致死と異常死の届出で医師法違反罪に問われた産科医に無罪を言い渡した。事件は、治療における医師の判断、手術法にまで捜査当局が踏み込んだものとして注目されていた。故意や明白なミスでなく通常の医療行為で医師が逮捕、起訴された事件は「医療が萎縮する」と医療界の猛反発を招き、関連学会の抗議声明が相次いだ。全国的な産科医不足に拍車を掛けたとされる。第三者の立場で医療死亡事故を究明する国の新組織「医療安全調査委員会(仮称)」が検討されるきっかけにもなった。
 公判では、子宮に胎盤が癒着した極めて珍しい症例に対し、胎盤をはがす「剥離」を被告が続けた判断の是非が最大の争点となった。裁判長は「医療現場でほとんどの医師が従う程度の一般性がなければ刑罰を科す基準とはならない」と判断。「現場と食い違う医学書の基準を適応すれば医師が治療法を選べなくなる」と指摘した。「異常死」で届出の医師法違反罪に関しては、「死亡は避けられない結果で報告義務はない」と判決された。
 厚労省の試案の医療安全調査委員会〈仮称〉は、医療関連死が起きた場合、医師や法律家らで作る第三者機関が医療機関からの届出を受け調査にあたる仕組みだ。調査委が「標準的な医療行為から著しく逸脱している」と判断すれば、捜査機関に通報が行く仕組みになっている。これに対して、一部の学会から異論が出て、議論は暗礁に乗り上げている。
 現場の実態や医師の裁量を重視した判決は、医療過誤をめぐる刑事責任追及の在り方や医療界にも影響を与えそうだ。(SS)


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(No104n;2008/08/22)

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