医療教育情報センター

No108 医療崩壊が来ると言う。どうしてか?

 原因、誘因は数え切れない程存在する。
 まず少子高齢化、ゼロ歳時の平均余命(寿命) は世界一、乳児死亡率は世界で最も低い。年寄りが増えれば、病人は増える。特に癌と動脈硬化による心臓病(心筋梗塞など)、脳卒中(脳出血、脳梗塞など)が増えるのは当然である。
 日本は島国なので、外来の伝染病を防ぎ易い。結核の撲滅がこんなに成功した国は世界の歴史に類を見ない。
 日本は世界に冠たる国民皆保険制度を持っている。アメリカでは健康保険に入っていない人が4千700万人もいるという。日本では健康保険証さえあれば少ない自己負担金で、いつでも、どこでも医療機関にかかることが出来る。ところが各人が払っている保険料では全国民の医療費を賄い切れない。だから不足分を税金で補填する。しかし考えてみれば税金も国民や企業が納めたものである。日本のように資源の乏しい国では産業が発展しなければ、企業からの税金は減る。医療費の基である診療報酬は政府が決める。医療経済は国家統制の社会主義経済の典型である。税金からの補填が難しくなると、診療報酬を下げようと短絡的に考える。だから診療報酬を上げると医者のベンツや医者の奥さんのミンクのコートに化ける、というような極めて浅薄な言辞を弄し、マスコミがそれに飛びつき、医師バッシングが始まったのである。
 昔はあのお医者様に助けられたという人々が多かったが、今やあの病院で高い金を取られたと人々は言う。医者も神様ではない人である。やる気を失うというものである。「人は褒めねば動かない」という格言は当を得ている。病院の廃院が続出するのは当たり前である。医療機関が廃止されれば、患者さん達は右往左往して別の診療所や病院を探さなければならない。基本的には介護施設も同様である。
 10年ほど前には医学部定員を減らせと文部科学省は言っていたのに、5年ほど前から今度は医学部の定員を増やそうと政治家やお役人は言っている。中堅の医師になるのには高校卒業後15年から20年はかかる。20年後に医者が過剰になるかも知れない。そうすれば優秀な高校生は医学部を目指さなくなるだろう。長期計画を考える能力は無いのか。
 現在の日本では、医師免許を持っていればどの診療科を標榜しても違法ではない。アメリカの専門医制度とは大いに異なる。従って、産婦人科や小児科では当直が多い、医療事故に遭遇する機会が多い、患者さんや家族からいわれの無い非難を受けることが多い、などの理由でこれらの診療科の医師になろうという若い人が激減するのは当然ではないか。 
 私が専門にしている病理医などは明治以来、絶望的に少ないままである。アメリカでは1930年代に内科、眼科と共に病理科の専門医制度が出来上がっている。
 医師不足の地方へ行って働けといっても、都会の生活に慣れ、医学の生涯学習の機会や子供の教育を考えれば、都会で医師として医療に貢献している人を非難することは出来まい。医療過疎地の対策は難しい。地方の診療報酬を上げて、お金で釣ろうというのがお役人の精々の知恵であろうか。(IS


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(No108n;2008/10/17)


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