医療教育情報センター

No114 動脈硬化性疾患予防のための調査から学ぶこと

 平成20年度日本医師会医学賞を受賞された上島弘嗣先生の大規模な長期追跡調査研究を知って頂きたい。研究の概要は日本医師会雑誌第137巻第10号(平成21年1月号)に所載されている。
 この調査研究から大きく二つのことを学んで頂きたいと私は思う。勿論、一つは日本人の動脈硬化性疾患の成り立ちと予防を学ぶことにある。もう一つは生物には個体差があるので、不特定多数を調査対象とした統計学の理解が必要であるということである。生物の現象で100%正しいのは、必ず死ぬということである。だから死ぬか、死なないかの調査はない。この調査研究は、日本人の動脈硬化性疾患について教えられるだけではなく、人間という生物の動向を調べるには大規模な集団について長期に調査する必要性を教えてくれている。
 首相あるいは政党の支持率についてのマスコミが世論と言っているものは、日本の有権者は何千万人と居るのに、500名やせいぜい1000名位を対象にした杜撰なものである。あれは統計学的には無意味な、医学の学会であれば発表を申し込んでも拒否される類のものであろう。
 動脈硬化性疾患に関する上島先生の報告を簡潔にまとめると、厚生労働省の循環器疾患基礎調査1980年(DATA80, 30歳以上男女約1万人対象)と1990年(DATA90, 約8千人対象)を更にそれぞれ19年と10年までの長期追跡調査(追跡率90%以上)をした、日本で暮らす日本人に関するデータである。年齢を30歳から64歳、65歳から74歳、75歳以上の3つに分けると、何れも血圧値の低いほうが循環器疾患死亡率は低い。血清総コレステロール値が高いと男女とも冠動脈疾患の危険度が増す。飲酒の習慣と総死亡の関係を見ると禁酒群の死亡危険率が高くなるっているが、これは禁酒したためではなく、禁酒をしなければならないような飲酒の習慣があったためか或いは禁酒をせねばならないような別の病気を持っていたためであろう。喫煙は脳卒中、心筋梗塞、総死亡に影響しているのは明らかで、喫煙と肺がんの関係も強い。毎日2箱以上の喫煙男性は2.2倍の危険度があり、心筋梗塞では4倍の危険度ある。喫煙者の平均寿命は40歳男性で3.5年短いという。動脈硬化の危険因子(バックナンバー:医療ニュース074n,新しい診療理念030rなど参照)が肥満、高血圧、高血糖、高コレステロールなどが複数重なると心筋梗塞や脳卒中の死亡率は高くなる。危険因子を3つも4つも持っていると、心筋梗塞は8倍、脳卒中は5倍も高いそうである。
 長期間の喫煙者がタバコを吸わなかった人よりも長生きすることは偶々あるが、それは例外であって平均値の話ではない。だから多数の対象者を無作為に選んで、なるべく他の因子による影響を薄めるようにしないと全国民に適用できるデータとはならない。生物学で統計調査が要らないのは、死についてである。それは100%と言う絶対値で表される厳然たる事実だからである。政党の支持率も同じことで、余りにも少ない対象数では国民の総意とは言えない。それを「国民はこう言っている」と喚いている政治家やマスコミは合理性、科学性を無視して、世論を誘導しようとしている魂胆が透けて見えているようだ。(IS


大規模長期調査 統計処理 動脈硬化 心筋梗塞 脳卒中
(No114n;2009/01/23)


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