医療教育情報センター

No120 脳死問題

 臓器移植法の改正案が今国会に提出されようとして、用意されている4案の調整が行われているようだが、その根本的問題は脳死を一律に「人の死」とみなすか否かということと臓器提供者本人の意思の確認という点である。1997年に臓器移植法が成立した時点でもこのことが議論され、脳死臨調の最終報告で一部の反対意見を添えて脳死を「人の死」と認めるという答申が出され、それを受けて臓器移植の時だけ脳死を「人の死」として、その他は心臓死をもって死とするという2つの死を認めた形になり、15歳以下の小児の意思確認が困難であるということから、臓器提供の対象からはずされたという経緯がある。
 脳死問題が決着したと思われた後、1998年に長期脳死(Chronic brain death)という論文で1ヶ月以上長期間生存した脳死事例17例をまとめて検討がなされた報告があり、日本の学会(日本脳死・脳蘇生学会)でも1年以上の長期間脳死状態で生命維持装置を動かし続けた小児例が報告され、最近の新聞(朝日)紙上にも長期生存した小児例の紹介があり、当初、脳死状態患者は数日から数週以内に心臓が止まるとされていた通説が覆されることになった。
 脳死・臓器移植が通常医療として行われていると思われる米国でも2008年12月に大統領倫理委員会が「死の決定に関する論議」という白書(http://www.bioethics.gov/)を出し、これに対する意見も公表されている。(DA.シュモン:脳死:蘇生可能か?ヘイスティングセンター報告:2009 39(2):18-26。F.G.ミラー、R D.トゥルーグ:新鮮臓器提供の倫理再考。ヘイスティングセンター報告:2008:38(6):38-46)
 生命維持装置に繋がれている脳死状態患者を生きていると考えるか、ただ機械で生かされている状態と考えるかは人によって解釈が異なり、特に家族にとって脳死状態になってすぐに死を受け入れることは困難で、時間をかけて死を受け入れるようである。
 一方、臓器移植の立場からは脳死状態であれば、なるべく早く感染など合併症が起こる前に臓器を摘出して移植する方が生着率が良いので、摘出時期の兼ね合いが難しい。
 救急医療の現場では脳死状態患者の治療の打ち切りという問題もあり、終末期医療のあり方も含めて、脳死問題に関して救急医、移植医、臓器提供者の家族、移植待機者、法律家、倫理学者、宗教家などで再度議論して、賛成・反対の意見の争点を明確にして、広く国民の間で考える必要がある。(SF


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(No120n;2009/05/29)


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