医療教育情報センター

No124 “ストレス潰瘍”と言う言葉はあるが、“ストレス心筋梗塞”もあるのか?

 胃の調子がおかしいとストレスのためではないか、とよく言われた。野球のイチローもWBCでのストレスで、胃潰瘍になったと言われた。ピロリ菌が発見され、研究が進むと胃炎や胃潰瘍の多くはピロリ菌のためであると言われだし、胃がんや胃の悪性リンパ腫の原因の一つとも言われるようになった。胃潰瘍のストレス説はどうなったのだろうか?
 個人的な話で恐縮だが、私は3年前に健康診査で切迫心筋梗塞(急性冠症候群)との診断を受け、その夜に緊急冠動脈バイパス手術を受けて、救命して頂いた。糖尿病はなく、コレステロール値も正常、タバコは吸わず、それほど肥満でもなく、軽い高血圧を除いては動脈硬化の危険因子を殆ど持っていなかった。それなのに心筋梗塞一歩手前(切迫)で、突然死をする危険性が高いと言われるまでに心臓の冠動脈に閉塞が起こっていた。数ヶ月前の心電図では異常を指摘されていない。動脈硬化の危険因子を殆ど持っていないのに、何故心筋梗塞になるのであろうか。
 振り返ってみると、若い友人から、貴方みたいな性格の人は心筋梗塞になり易いと言われ、記事のコピーを貰ったことがある。精神的ストレスで動脈に過度の収縮(攣縮という)が起こるらしい。同じストレスであっても、人によって感じる度合いや反応の内容は異なる。アメリカのFurchgott博士は動脈の内皮細胞に血管の拡張因子があることを見つけ、ノーベル賞を受賞した。内皮細胞が傷害されると、普通は動脈を拡張させる物質(コリン系)なのにその物質を投与すると冠動脈に攣縮を起こしてしまうことが動物実験で確認できた。皮肉なことに私はその研究をしていた。動脈硬化が起こると、軽くても内皮細胞は傷害され、動脈の壁に液体成分が浸み込みやすくなり、動脈硬化が進むという悪循環となるらしい。そればかりでなく動脈は攣縮を起こし易くなる。攣縮が繰り返えされれば内皮はまた傷害され、動脈硬化は一層進行し、内皮は更に傷害され、また攣縮を起こすという複雑な悪循環が重複されるようだ。
 政治家、医師、大学教授、大会社の経営者など責任ある立場の人(国民への責任を全く感じないような政治屋や会社が破綻しても高額な報酬を望んだCEO達には無縁かもしれないが...)やA型性格(血液型のAではなく、AggressiveのA:目標に向かってまっしぐら、責任感が強い、計画を実行し、実現しないと気が済まない攻撃型)の人は心筋梗塞になる頻度が高いと言われてきた。動脈に起こる前述の悪循環がブルー・カラーよりホワイト・カラーに心筋梗塞が多いという結果を生んだのであろう。
 もう一つ驚いたのは、退院時に支払った医療費の安さである。約10日間、高度救命救急センターと一般病棟の個室に入院し、食事を提供され、冠動脈カテーテルでのシネ血管造影を含む多くの検査、多数の医療スタッフが参加する診断、昼も夜も世話をして下さる看護、夜を徹しての麻酔や手術など、全て込みで自己負担額が約12万円であった。その少なさに驚愕した。アメリカであったら数百万円、もしかすると1000万円位必要なのではないか。日本は患者にとっては全く素晴らしい国である。その半面、医療機関や医療従事者にとって劣悪な環境を強いられて既に久しい。救急、小児科、産婦人科、外科系、麻酔科、放射線科、病理診断科を希望する若い医師が激減するのは当たり前のことである。こんなことを考えると、A型人間にはまたストレスが倍加する。(IS


心筋梗塞 精神的ストレス 動脈攣縮 動脈硬化危険因子 A型性格
(No124n;2009/08/07)


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