医療教育情報センター

No135 お上依存体質と福祉−少子高齢化の医療費を誰が負担するのか

 日本の平均寿命は世界1位、衛生状態の指標となる乳児死亡率は世界最低、国民総生産に占める医療費総額は先進国で最低である。健康保険証を持って行けばアクセスよく、どこの医療機関でもほぼ同じ医療費で医療を受けられる。だからWHOは国民全体に良質の医療を提供している第1位に日本を挙げたと言う。しかし日本の医療制度には問題が多い。診療報酬は政府が決める。10年位前には、医師過剰だから医学部学生定員を減らせと文部省から言ってきた。診療報酬を上げると医者はベンツを買い、医者の奥さんのミンクのコートに化けると、キャンペーンを張られた。それで医者バッシングが起こり、挙句の果てに福島県の或る病院の医師が業務上過失致死罪で逮捕、送検されるという、起こり得ないことが起こった。その先生は無罪とはなったが、辛い人生であったであろう。宿直では殆ど寝ることができない小児科、救急、産科を扱う病院から医者がどんどん辞めてゆく事態を招いた。そして多くの医療機関で閉院或いは診療科の廃止となり、救急患者さんのたらい回しが起こった。たらい回しをする病院や医者は怪しからんとの大合唱が起こった。しかしその根本的な原因は病院や医師にあるのではない。政治、行政及び国民が長い時間をかけて知らず知らずのうちに患者さん受け入れ不能の病院を造ってきたことにある。
 数年したら、今度は医師不足だからと言って医学部学生定員を増やし始めた。長期計画の無さには呆れる。学生定員を増やしても、中堅医師として働けるまでに15年はかかるし、その上、救急、産婦人科、小児科、外科系、麻酔科、放射線科、病理診断科そして医療過疎地の医者は増えないだろう。殆ど寝られない宿直明けの翌日でも終日勤務をしているのが医師達である。医師は労働基準法の適用外らしい。その根源には全国で調整、統合された真の専門医制度がないという事実がある。患者さん側から訴訟される機会が多い、夜中に起こされる、その科の医師数が少ないので医師の負担は増す(だけど目の前の患者さんのためには自分のことなど考えて居られない。医学部ではそのような医師になれと教育している)、科別の診療報酬に矛盾がある等などの問題が解決されなければ、医学部定員をいくら増やしても医師の偏在は解決されない。
 官僚統制の行財政を改革するための根本は、国民がお上に依存する意識を捨てること、ではないか。お上への依存や要求が増え続ければ、税金を上げ続けることは出来ないから規制や補助金を調整して総金額を減らす作業が必要となる。その処理のために役人は増える。もし国民のお上依存体質が無くなれば、役人や議員数は減る。少子高齢化社会だから人口を増やせと言う。しかし30〜50年後に日本の人口が数千万人増えたら、全国民が充分に食ってゆけるのだろうか。高齢者が検査を受ければ異常値が出ることが多い。医療費は鰻登りに上がり続ける。しかし元気な高齢者は沢山居る。高齢者が生き甲斐を持って働けるような社会を創るべきではないか。
 国民負担率とは、国民の総所得に対する国民が納入する国税・地方税及び保険料などを合計した負担額の割合である。福祉国家で有名な北欧のスウェーデンの国民負担率は70.2%(消費税は25,0%)、即ち買い物の度に25%の消費税を払いながら全国民が平均して収入の7割を負担している。フランスは61.0%(消費税19.6%)、ドイツ51.3%(消費税19.6%)であるが、これに対して日本は39.7%(消費税5.0%)である。端的に言えば、高福祉の国は大きな政府であり、沢山の公務員を必要とし、その結果国民の負担は上がる。「福祉は厚くしろ、だけど減税もしろ」というのは無理ではないか。
 国家が国民のためにやるべきことは、国防、保安、外交、義務教育、全国レベルの交通網、国民の健康保持・発展のための公衆衛生・環境保全である。そして科学・技術立国と言うのならば、研究体制の推進・支援が必要である。これらの実現のために国民は税や保険料を納めている。地方自治を進めろと言うが、地方自治が進行すれば国からの交付金は減るので地方税や消費税は増えるだろう。アメリカの州は軍隊(州兵)を持っているし、州警察や消防もある。医者や弁護士の試験も州単位で行っている。州によって州税の額が異なる。東京都民税が所得の10%で、隣県の地方税が30%になったら、多くの人は東京へ引っ越すだろう。それにしても日本は県、市、区、町などの数が多すぎるし、国会から村議会までの議員総数は膨大な数であろう。アメリカは50州しかなく、人口差を無視して上院議員は各州2名である。それが民主主義に反しているとは誰も言わない。年金の保険料を納めているのは、不特定多数の日本国民全体のためであり、自分が納めた保険料を取り戻すためではない。貯金とは根本的に異なるのだ。福祉とは困っている人を助けるヒューマニズムから発することである。自殺者は毎年3万人を超え、若い人も多いと言う。デンマークで若い人に直接聞いた話だが、高福祉国のデンマーク(消費税25%)では若い人の自殺が多いと言う。その理由は、若いうちに自分の一生が見えてしまい、将来の理想や目的達成のために一生懸命に頑張ろうという自立心が失せるからだと言っていた。日本でも、自分で人生を切り開いて行こうという自立心を減弱させてきたのではないか。使命観や倫理観の喪失もこれと無縁ではあるまい。(IS (参考):新しい診療理念No069r;2010/1/15「日本の医療 功と矛盾」


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(No135n;2010/02/19)


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