医療教育情報センター

No140 医療メディエーション

 医療現場で医師や看護師ら医療従事者らに対して理不尽な要求や暴言・暴力を繰り返すモンスターペイシェント(モンスターペイシェントの実態、No112n;2009/01/08)は論外としても、患者と医療者側とのトラブルや訴訟が増えている。この原因としては、患者の権利意識の高まりや、もともと不確実でリスクを伴う医療に対する患者側の無理解もある。いったん、患者とのトラブルや医療事故が発生すると、当事者が感情的に対立してしまい、話し合いの場を持たないまま訴訟に進むケースが少なくないと考えられる。
 こうした状況に対して、院内の初期対応こそが重要だという視点から、「中立・第三者の立場で,対立する患者・家族と医療者側の対話を促進することを仲介することによって両者の関係を修復し、自分たちの力で問題解決の糸口をみつけることを支援する初期対応モデル」が医療メディエーションである。  これまで法曹界で用いられてきた手法であるが、,医療界においても注目を集めるようになってきている。メディエーション(mediation)は、日本語訳では「調停」になるが、裁判で使用される「調停」と区別するためにメディエーションという原語が使用され、仲介者は医療メディエーターと呼ばれている。
 医療メディエーターはあくまでも、当事者自身による自主的な対話を促進する役割で、代理や代弁をしたり「調停案」や「解決案」を提示したりしない。メディエーターが患者側と医療側の対話の橋渡しをすることにより感情的対立がなくなると、当事者に問題解決への気づきが生まれる可能性が出てくる。その意味で、医療メディエーターは、医療対話仲介者とか医療対話促進者と訳されることもある。
 2008年3月には、医療メディエーターの質を保証し、研鑽を目的として民間団体「日本医療メディエーター協会」が設立された。メディエーターの認定事業をはじめ、さまざまな活動を行っているが、医療メディエーターとして認定されても「資格」ではない。あくまでも、医療機関のスタッフを対象に、メディエーションについて「専門知識の理解」「専門技法の習得」と「倫理性の涵養」について研鑽する場を提供し、質を保証することを目的としている。本会の認定者は既に300人を超えている。
 なお、医療メディエーションと関連する病院の医療事故対策として、「アドボカシー」がある。アドボカシー(advocacy)は「ある人の味方となってその権利や利益を守るために闘うこと」という意味し、アドボケイト(advocate)は,味方となって闘う人を指す。
 米国の医療施設では「アドボカシー(患者の弁護)室」などの名称で普及しており、患者の苦情・要望などを病院に対して申し立て、患者と病院の間に入って通訳をすることを主業務としている。アドボカシーの基本方針は、患者を弁護・擁護し、あくまでも患者側に立つことであり、医療メディエーションとは異なる。
 最近の医療はデータ中心(EBM、No001r;2003/07/25)となり、診察室でコンピュータの画面を見たまま、患者と向き合わない医師が少なくない。しかしながら、医療は患者とのコミュニケーションによる信頼関係の上に成り立っている。医師は改めてこのことを肝に銘じて実践してほしいものである。(TI


医療訴訟 医療メディエーション 医療メディエーター 日本医療メディエーター協会 アドボカシー  
(No140n;2010/05/14)


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