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No146 腹部大動脈瘤の新しい治療法

 粥状動脈硬化症は、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞、下肢壊疽及び大動脈瘤の原因となる。昔は梅毒性大動脈中膜炎でも大動脈瘤は起こり、それは胸部大動脈に多く、腹部大動脈瘤は粥状動脈硬化症によるものが多い言われていた。梅毒そのものが激減し、今では胸部大動脈瘤の多くも動脈硬化症によると言われている。動脈硬化症が恐ろしいのはこれらの病気は普段は健康そうに見える人に突然発症することにあり、一家の大黒柱である中高年者の特に男性に頻度が高いからである。更に大動脈瘤があっても気付かれず、それが突然破れて大出血が起こってやっと分かることが少なくない。
 “動脈硬化”と言うと、動脈の壁が硬くなるので、破れ難くなると思う人が居る。動脈硬化の処に石灰沈着が起こればその場所は硬くなる。しかし“粥状”と言っているのは、動脈硬化病巣にコレステロールや中性脂肪と共に壊死になった細胞の残骸の集団が溜まり、それが「お粥」のようにどろどろしているからで、寧ろ動脈の壁は弱くなっている。だから血圧によって大動脈の壁は外方に瘤の様に膨隆してしまい、壁は薄く脆くなって破れてしまうのである。この“硬化”という言葉はむしろ動脈としての機能不全を表していると理解した方がよい。
 大動脈瘤は胸部にも生じるが、腹部に多い。その理由はいろいろ言われてきた。胸部大動脈は動脈壁を養っている細い血管(栄養血管或いは血管の血管と呼ばれる)が外膜から入って中膜にも分布しているが、腹部ではこの細い血管が少なく、大動脈壁は酸素と栄養源を血管腔内を流れている血液に依存している。だから血液内のコレステロールや中性脂肪が動脈壁に浸み込み易く、そこで溜まり易いからだと言う説が有力だ。
 腹部大動脈瘤が発見されると、破裂の危険性のある場合には開腹手術によって動脈瘤の在る大動脈の一部を切除し、代わりに人工血管を使って繋げるのが主流であったし、現在でも開腹手術の方が多い。ステントグラフト内挿術(endovascular abdominal aortic aneurysm repair (EVAR):直訳では血管内腹部大動脈瘤修復術)がステントグラフト(stint graft)(stint は切り詰める、節約するという意味、graftは接木のこと、移植片のこと)についての企業の素材改良の努力もあって、世界的に広まってきた。アメリカはFDA (Food and Drug(s) Administration食品医薬品局)が1999年に認可している。
 このEVARは血管内でステントと呼ばれる篭のようになるものを血管内に折りたたんだ状態で挿入し、それを解放することによって血管拡張を図るもので、心臓の冠動脈の拡張には広く使われている。大動脈瘤は血管腔の一部が異常に拡張して出っ張っているものだから、血管腔の拡張を目的にするものではない。そのステントにダクロンのような人工繊維で出来た布のようなものを組み合わせて、血管内でステントを広げて拡張した血管内でより正常に近い内腔を持った人工血管を設置して大動脈瘤の破裂を防ごうというもので、開腹する必要がない。患者さんへの負担が少ないので、日本でも広がりつつある。 胸部大動脈は脳を含む頭部と両上肢へ行く動脈が分枝しているので、このEVARにバイパス手術を同時に行なう方法が工夫されている。(IS


粥状動脈硬化症 腹部大動脈瘤 人工血管 ステントグラフト 動脈瘤破裂
(No146n;2010/09/03)


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