医療教育情報センター

No151 多剤耐性菌の院内感染

 本年9月6日、帝京大学病院は、昨年8月〜今年8月の間に、ほとんどの抗生物質が効かない多剤耐性アシネトバクター(MRAB)の院内感染が発生。患者数58人におよび、感染との因果関係は調査中としながら、死亡者は計33人になったと公表した。  アシネトバクター自体は人の皮膚などに広く存在する細菌。健康な人が感染しても影響はないが、重症患者など免疫力が低下した人が感染すると、肺炎や敗血症などを起こし死亡することもある。
 帝京大学病院は病床数1,154床。高度な先端医療を行う特定機能病院や総合周産期母子医療センター、救命救急センターなどの指定を受けている。高度医療をになう大学病院で、なぜこれほど大規模な院内感染が起きるのかと考えられるが、高度医療機関には抵抗力の弱い重症患者が集まるため、常に院内感染が起きる危険があるともいえる。
 しかしながら、その後、同院に対してメディアから非難が集中した。厚労省は全国の医療機関に、院内感染があった場合は迅速に報告するよう求めているにもかかわらず、5月に院内感染が発覚してから9月まで国へ報告しなかった。大学病院などには院内感染担当者の配置が義務づけられているが、専従スタッフがたった1人であった、等々。
 そして、同院のみでなく、全国の医療関係者を震撼させることが起きた。9月6日には、業務上過失致死傷を視野に入れた、警察による医師らに対する事情聴取が始まったことである。死亡例のうち9人はMRAB感染が直接の死因となった可能性があり、「医療従事者側に過失がある」ことを前提とした任意捜査である。医療界からは警察による介入を疑問視する声が多数上がった。
 院内感染が起きた、報告が遅かった、というただそれだけの理由だけで警察介入が行われるならば、医療従事者は心理的に萎縮してしまい、積極的な診療を避けるようになる。結果として、リスクの高い重症例は受け入れないことにもなりかねない。実際、帝京大学は9月8日から、救急車や新規の入院患者の受け入れを中止することを発表した。行き過ぎた警察の介入は医療崩壊を加速させることにもなる。
 多剤耐性菌による院内感染は、どんなに警戒しても完全には防ぎきれない。重症患者の診療に抗生物質が多用されていることで、新たな耐性菌を生み出してもいる。拡大を防ぐには、医療機関は感染の事実をすばやく公表し、情報を共有して早期発見に努め迅速に対応する必要がある。
 今回の問題は、医療従事者と国民との間に、感情面と認識面で大きなギャップが存在することを浮き彫りにした。成功すれば高い評価を受ける高度先進医療にはリスクがつきものである。治療の結果がよくなければ問題とされるのであれば医療は成り立たない。このギャップを埋めるのは、患者が真に納得するインフォームド・コンセントであるといえる。(TI

※特定非営利活動法人医療教育情報センター会報PUM第9号に、関連記事「医学・医療最前線C細菌の逆襲」を掲載しています。


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(No151n;2010/11/22)


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