医療教育情報センター

No157 医師不足対策―イギリス、ドイツに学ぶ

 わが国では医療崩壊が叫ばれ、その原因の一つとして医師不足があげられている。本欄でも取り上げられたが(No148n;2010/10/15)、厚生労働省が行った必要医師数の実態調査の結果によると、診療所と病院をあわせて2万4千人医師が不足しているという。  しかしながら、医師数は戦後一貫して増え続けており、病院や診療所で働いている医師の数は約27万人で30年前に比べると約2倍になっている。それにも関わらず医師不足となるのはなぜであろうか。
 最大の理由は、国民がいつでもどこでも高度な医療を求めるようになったことである。ありふれた病気であっても最初から専門診療を求め、大きな病院で受診する。したがって、地域で「かかりつけ医」として幅広く診療する“家庭医”が不足しているといえる。  さらに、医師が都市部に集中する地域格差、小児科や産婦人科の医師不足、夜間、救急医療に携わる医師の不足もある。したがって、政権交代によって実現した医学部の定員増だけでは、目前の問題解決にならないだけでなく、将来的にも医師不足対策にならないことは明かである。
 2年前、NHKスペシャルでは、医療再建は「医師の偏在」の問題に取り組まないと現状打開にはつながらないという討論番組を放映し反響を呼んだ。このときのスタッフが中心となって、その内容を盛り込んだ下記の本が出版された。いろいろな面でわが国と類似しているイギリスとドイツでの取り組みが参考になると考え紹介したい。
 サッチャー首相が財政再建のために医療費を抑え、深刻な医師不足を招いたイギリスでは、後を継いだブレア首相が大幅な医師の増員と医療予算の拡大をはかった。見落としてはならないのは、地域の医療全体について計画を立てる政府機関である戦略保健局が大学医学部、専門医を認定する学会と緊密な連携をとり、計画的な医師の配置を行っていることである。
 つまり、わが国ように医師が自由に専門を名乗り、希望する地域で開業できない。一方、国民も自由に診療所や病院で診てもらえない。まずは、GPと呼ばれるかかりつけの医師に予約をとって診てもらわなければならない。必要があれば、GPが専門医に紹介する。
 ドイツはほぼ全ての国民が医療保険に加入している。医師の数は日本の1.7倍であるが、開業の自由が厳しく制限されている。医師が開業するためには医師免許に加え、家庭医も含めて専門医の免許を取得しなければならない。
 開業の場所についても地元の開業医団体から、許可を得なければならない。地域の枠が空かなければ開業できない。開業後も地域の夜間救急医療や休日診療への参加が義務化されている。さらに、医師の偏在を防ぐために開業医に定員や定年を設け、68歳になると保険医療を行えない。
 両国においてこうした医療制度を確立できたのは、強力なリーダーシップを持った首相が国民に支持され、「医療は国民が応分の医療費を負担し、みんなで上手に活用するものだ」という意識がしっかり根付いているからだと考えられる。
 その意味で、わが国に求められているのは、「医療は公的な財産であり、受ける権利と同時に経済的負担と診療の制限を伴う」ことを受け入れる国民の意識改革ではないか。医師も職業人としての自由と公共の利益を両立させるシステムに協力しなければならない。(TI

[参考]岩本 裕, NHK取材班 (著):失われた「医療先進国」 ブルーバックス 2010年


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(No157n;2011/02/25)


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