医療教育情報センター

No165 レジリエンス:回復を支援するモデル

 東日本大震災で世界のマスメディアが日本人を褒めていることは、しばしば報道されている。米タイム誌は、「震災は日本人のレジリエンスを浮き彫りにした」という記事の中で、惨事にあっても秩序を保ち,がまんを口にする被災者たちを紹介した(朝日新聞:2011.7.29)。
 レジリエンス(Resilience)は、「弾力性,回復力」などと訳されている。この言葉は1900年代,物理学の分野で使用された。レジリエンスに関する初期の研究の大部分は1970年代の小児精神医学の領域であった。貧困や親の精神疾患といった不利な生活環境が、子どもの成長発達に及ばす影響について研究が行われた。統合失調症に罹患している母親に育てられた子どもの成長を追う過程で、脆弱でない(invulnerability)子どもの存在が確認された。そしてよい自尊心や社会的支援といった、健康や安らぎを促進するように思われる因子が見出された。
 1980年代から成人の精神医学にも導入され始めた。1990年代には,レジリエンス概念には逆境だけでなく、生活上のストレッサーが含まれるようになり、事故や自然災害,暴行といった急性心的外傷を対象とした研究が多くみられるようになった。大地震に被災したという共通の外傷体験があったとしても、ある人はPTSD(外傷後ストレス障害)になり、ある人はPTSDにならない。これまでは、なぜこの人がPTSDになったのかという病因を探る「発症モデル」の研究が主流であった。レジリエンス概念の拡大によって、危険因子とともに防御因子が注目されるようになった。回復過程を注視する立場を「回復モデル」と呼んでいる。
 心理的レジリエンス因子として前向きな姿勢(楽観主義とユーモアセンス)や積極的対処様式(解決策を模索する、感情を制御する)、柔軟性のある認知、認知面の再評価(逆境における意義もしくは価値を見出す)、倫理基準(核となる信念を受け入れる)、運動(定期的に身体活動を行う)、社会的支援(信頼のおける相談相手、社会的ネットワークの確立)があげられているが、本来、文化の中にはレジリエンスを高める役割があると指摘されている。たとえば、葬儀や初七日といった儀式である。親しい人を失って悲嘆反応を起こしている遺族の存在を周囲に知らせることで、脆弱な遺族たちを周囲が自然と支え、協力する埋葬の風習などは普遍的にみられるものである。このような文化、習慣が個人主義や利己主義といわれる流れのなかで社会から少しずつ失われつつある。うつ病などの精神疾患に患者がふえていることと無関係ではない、との指摘もある。レジリエンスを高めるためには、日本の文化、風習を見直すことも必要であろう。(EN


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(No165n;2011/08/22)


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