医療教育情報センター

No167 がんのリハビリテーション

 最近、胸部腫瘍の切除手術を受けるために待機入院した知人を手術の翌日、病院に見舞うと病室にいなかった。点滴台を押しながら病室のあるフロアを散歩していたのである。腹部の手術と異なり、食事は普通にできており、手術によるやつれなど微塵も感じられなかった。知人はその後、合併症もなく1週間後に退院となった。手術創のケアは外来で受けるという。痛みのコントロールや痰の出し方の指導など、予防的リハビリテーションの成果ともいえる。
 一昔前はがんと診断されると、手術・抗がん剤・放射線治療の「治療」が最優先された。患者の痛みを初めとする症状の緩和、日常生活、社会復帰は二の次であった。治療による後遺症が出てもやむを得ない。病名が告知されていなかったこともあり、医師にとっては、「がんだから」と言えば、患者は我慢せざるを得ない“免罪符”を手にしているようなものであった。この時代を考えると、隔世の感がある。
 わが国は高齢社会を迎えたこともあり、二人に一人ががんになり、三人に一人がんで死ぬと言われている。がん患者の半数以上が治るようになったとはいえ、治療による後遺症や、がんそのものによる機能障害によってクオリティ・オブ・ライフ(QOL)が低下した生活を送っている人が少なくないと考えられる。
 2006年には「がん対策基本法」が制定され,がん患者の療養生活の質の維持向上が,基本的施策として,国の責務であることが明確にされた。しかし、治癒をめざした治療からQOLを重視したケアまで切れ目のない支援をするという点で,わが国のがん診療はまだまだ不十分である。
 がん患者にとって,その治療の過程で,脳機能障害,嚥下障害,発声障害,運動麻痺,筋力低下,疼痛,病的骨折,四肢の浮腫などさまざまな機能障害が生じ,日常生活に制限を生じ,QOLの低下を来す。これらの問題に対してリハビリテーションを行う必要性は高い。
 こうした流れの中で、健康保険の2010年度診療報酬改定で、がん患者リハビリテーション料が新設された。必要条件は、がん患者リハビリテーションに関する研修を終了した理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が個別に20分以上のリハビリテーションを提供した場合に1単位として算定される。
 現在、わが国においては,専門外来としてがんのリハビリテーションが運営されている医療機関はほとんどない状況であるが、がんリハビリテーションの専門スタッフ育成を目的に,2007年度より厚生労働省委託事業として,辻 哲也氏(慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)がプランナーとなり、“がんのリハビリテーション研修ワークショップ”が開始された。全国のがん診療連携拠点病院の医師・看護師・リハビリ療法士が3年間で約500人参加している。
 このように、がんのリハビリテーションは、まだ緒についたばかりであるが、がん診療の一つの部門として発展させるべきである。患者のニーズを尊重し、運動療法や精神心理面を含めた全人的な対応は、患者のQOLを改善するだけでなく、免疫力を高める。これは治癒を望めない場合にも延命につながることが期待されるからである。(TI

[参考]辻 哲也:知っておきたいがんのリハビリテーション. 週刊医学界新聞, 2869号    2010年


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(No167n;2011/09/09)


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