医療教育情報センター

No173 続・死因究明制度

 死因究明制度(No.169, 2011/10/25)の医療ニュースのなかで死体解剖の重要性が指摘されている。
 私は病理医なのでその立場からその続編を述べさせてもらいたい。病理学は死体解剖から始まった。直に自分の目で観察することが問題の解決に繋がるであろうことは医学に限らない。
 死体解剖は三つに分けられる。

1.系統解剖。人間の体の正常の構造を知るためのもので、現在は主に医学生達の実習で行われている。死体は主に故人の生前の意思によって遺体を提供されたものである。
2.病理解剖。病気で患者さんが亡くなった時、主治医が考えていた診断名、治療法は正しかったか、副病変の見逃しがなかったかなどの確認、疑問に思っていたことの解明及び新しい知見を得るための臨床研究等々多くの目的をもって為される。そして解剖によって確認された症例を集積することによって、疾病に関する正しい統計的解析ができる。日本の死亡診断書に心不全が多いことは国際的に有名であり、国際学会で国別死因を発表した外国の医学者が日本のデータは問題が多いからと除外していた。これは国として国際的に恥じを曝したことになる。これは日本の病理解剖数が少ないことが理由である。あらゆる病気に通暁する訓練を経た病理医が解剖を担当する。しかしこの病理解剖はご遺族の承諾がないと行うことはできない。ご遺族の承諾なしに解剖を施行すれば、その医師は死体損壊罪に問われることになる。この病理解剖は臨床医の科学的な知識と理解を深めるために重要な卒後臨床研修の一端を担うことになる。そのため病理解剖率(病理解剖数/死亡者数x100)はその医療機関の医療の質を表す指標の一つとなっている。事後に、臨床医と病理医を交えて検討会(臨床・病理討議会CPC:Clinical-Pathological Conference)が行われる。
3.法医解剖。これは行政解剖と司法解剖に分けられる。行政解剖は異常死体(医師が病死によると死亡診断書を書くことができない死体)について、病気のためか或いは例えば殺人などの犯罪が絡んだものであるのか、自殺であるのかなど警察の検死では判断がつかない場合に行政府の命令によって行うものである。司法解剖は裁判所の命令により事故死について行われるもので、主に大学医学部法医学教室の教員が行う。法医解剖施行の命令を遺族も拒否することはできない。

 小児科、産婦人科、救急医学の医師不足が最近叫ばれているが、特に解剖を担当する医師は明治以来極端に少ないまま放置されている。医学部学生数を増やせと言っている人々がいるが、医学部学生定員を増やしても、これらの医師が増えることはない。医師不足は即ち医師の専門別偏在であることに対して何らの手も打っていないからである。(IS


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(No173n;2012/01/07)


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