医療教育情報センター

No190 高齢者の視力障害 その基礎

 現在の日本では医療機関で診療を受ける患者さんの約半分は65歳以上とのことである。眼科に限れば67%の患者さんが65歳以上だそうだ。即ち高齢者は眼科を受診する人が極めて多い。年齢を重ねれば誰しもいわゆる老眼になる。ここでは老眼は取り上げない。
 眼球の奥にある網膜には神経細胞があり、言ってみればそれは脳の出店である。明暗や物の形を認識し、両眼で見れば遠近が判る立体視ができる。網膜で見ているのではあるが、物体や光は眼球の前方にある角膜を通過し、更にその内部にある水晶体(レンズ)を通過し、更に硝子体を通過して、網膜に達し、そこで神経細胞により認知され、その情報は視神経(視束)を通って大脳の後頭葉に伝達される。そして、大脳の働きで、形や色が記憶され識別できるようになり、この人に会ったことがあるとか、あの人は誰さんであると判断できるのである。
 角膜、水晶体、硝子体は形や光が通過するところなので透明でなければ良く見えないことになる。瞳孔の孔の大きさは変えられるので、眩しければ瞳孔は狭くなり、暗くなれば広がる。水晶体はZinn氏帯という細い多数の糸で吊されておりその先は毛様体という筋肉に繋がっている。この筋肉の働きによって水晶体(レンズ)は薄くなったり、厚くなったりして、見る対象の距離によって焦点を調節出来るようになっている。
 角膜炎などの後遺症として角膜混濁が起こり、その混濁が瞳孔の孔の部分に生じれば、視力障害が起こる。角膜混濁は酷ければ角膜移植の対象となる。 水晶体が混濁したものを白内障と言う。加齢によって起こるのが最も多く、70歳代になれば程度の差はあるが約80%の人に見られるという。糖尿病患者は白内障になり易い。今はこの水晶体(レンズ)を人工レンズに交換できるが、人工レンズは厚さを調節出来ない物が一般的なので、固定焦点となってしまう。
 硝子体に出血が起これば、光は通過しなくなる。出血という大ごとでなくても、微小な物資が浮遊すれば硝子体混濁となる。時にゴミや小さな虫が飛んでいるように見えることがあり、これを飛蚊症という。
 緑内障は一般には目の内圧が異常に高くなる。眼内にある液体は流れている。最終的には目の隅角に至り排出される。一般的にはこの流れが障碍されると眼圧は上がり、延いては緑内障となることがある。長い間眼圧が高いままでいると網膜に萎縮が起こる。但し眼圧が正常であっても緑内障が起こることもある。
 大きな問題は網膜の病気である。網膜には細い動脈・静脈が分布している。高血圧や糖尿病があると、細動脈硬化を含めて網膜血管が障害され易い。眼底出血や糖尿病網膜症となる。おまけに糖尿病の人は太い動脈だけでなく細動脈硬化も起こり易い。糖尿病の人は普段から食事や運動などの適正な生活習慣が大切で、糖尿病網膜症の予防になる。眼底のほぼ中央部にある検眼鏡的には黄色味を帯びた部分を黄斑と呼ぶ。ここは網膜内面が擂り鉢状に凹んでいる。黄斑に変性が起こると視野の真ん中が見え難く(暗点)なる。加齢黄斑変性症はかっては日本では少なかったが、高齢化及び生活の欧米化のため急激に増えている。高血圧や喫煙も危険因子となると言われる。治療は従来からレーザー光凝固術、手術などが行われてきたが、光線力学療法、副腎皮質ステロイドやステロイド類似薬、抗血管内皮成長因子療法などが開発されてきた。
 目には様々な各々独自の働きを持つ組織があり、それぞれに独自の病気が起きる。眼球はその中を外から直接観察できる特異な臓器であり、且つ光を通しそして形や明暗を判断する機能があるので、光学科学を基盤とした精密な診断用の機器及び眼内手術のための機器が開発されている。その意味からも視力に問題があると感じたら、これらの機器を駆使できる優れた眼科専門医に診てもらい、糖尿病の場合のように生活習慣の指導をも含めて、治療方針を立ててもらうことは患者さんにとってとても大切なことである。(IS


白内障 緑内障 眼底出血  加齢黄斑変性症
(No190n;2012/10/26)


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