No194 出生前診断と命の選別

 妊婦の血液を採取して胎児にダウン症などの異常があるかどうかほぼ確実にわかる新型の出生前診断法が米国で開発され、わが国でも昨年秋に約10の医療機関で導入されることが発表された。これまでは妊婦の腹部から羊水を採取したが、これは0.5%の確率で流産の危険を伴う。高齢出産の増加に伴い、羊水検査による出生前診断は増加傾向にあり、2008年には約13,000件が行われたという。新しい出生前診断は血液検査でほぼ確実に異常が分るため、検査を希望する人が増え、安易に人工妊娠中絶を行うことが懸念される。
 妊婦の血液から胎児の染色体異常などを調べる検査は、その他にも「母体血清マーカー」と呼ばれるものがあるが、わかるのは異常のある確率のみである。厚生労働省は「医師は勧めるべきでない」と勧告しているが、法的規制はなく年間約2万件が行われている。いずれにしても胎児に異常があるとわかれば、その異常の起こる確率、種類、程度に関係なく妊婦のショックは大きく、人工妊娠中絶を選択する場合が少なくない。
 「健康な赤ちゃんを産みたい」というのは親として当然の願いであるが、異常の可能性だけで妊娠中絶を行うことには問題がある。そもそも人工妊娠中絶を定めた母体保護法では、中絶の条件として「胎児の異常」は認めていない。 ダウン症は知的障害や他の疾患を伴うことはあっても、教育、医療体制は整備され、健やかに日常生活が送れることを医師は妊婦に説明することも大切である。新しく誕生する生命を左右することは、妊婦にも、父親にも、そして医師にも出来ないはずである。新型出生前診断を導入している外国では、「障害者の排除につながる」として家族らの団体が反対声明を出し裁判所に提訴したケースもあるという。
 こうした状況にあって日本産科婦人科学会は、「この新型出生前診断をスクリーニング検査として安易に実施することは厳に慎むべきである」という声明を出した(2012年9月1日)。声明では「検査の解析結果の解釈は従来の検査より難しいことも多く、高度な遺伝学的専門知識も必要である。また診断後の妊婦および家族への対応には遺伝カウンセリングが必要である。現時点で広範囲に実施した場合、社会に大きな混乱を招くことが懸念される」と述べている。
 生れてくる新しい生命に対して、両親、医師、社会は「弱者切り捨て」をしてはならない。生殖医療技術の進歩とその利用に一定のルールを策定することが必要である。これを放置すると「命の選別」が無秩序に行われていくことが懸念される。

(No194n;2013/01/11)NH

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