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職場のメンタルヘルスを考える
No003h (2018/06/15)
 働く人がかかる病気は、職業病あるいは作業関連疾患(ILO,WHO)と称し、国によって病名別あるいは発症要因別などいろいろな定義がある。日本で最近特に問題になっているのが過労による精神疾患・自殺である。また脳血管障害や心臓病も過労が関係する。国会で問題となっている働き方改革問題とも密接に関係している。
 働き方の根幹の法律は労働基準法(昔の工場法)である。働く時間、賃金、経営者の責任などについて多くの規定があるほか、関連の法規則も多数ある。根本理念は「働く人々の保護」である。当然、近代産業が興った19世紀から各国各様の歴史の中で発展してきた。わが国は1916年に工場法を施行し1947年に労働基準法を制定して以来数次の改定を経て今に至っている。しかしグローバル世界経済や科学技術の発展により古い法律と現実が合致しなくなり、うつ・過労死・過労自殺、非正規労働、労働時間、賃金・労働契約・企業責任、等々の健康問題と労働問題が複雑に絡み合って一筋縄では解決されない状況に陥っている。
 精神の不健康状態を「メンタルヘルス」という言葉で厚生労働省が用いたのは40年前からであり、それまでは典型的な精神性疾患と区別して「職場不適応症候群」などと称していた。時代を先取りしたメンタルヘルスの用語が登場して、脳や心の問題に行政が立ち入るのは如何なものかと困惑したのを思い出す。是非はさて置くが、それまでは心の健康問題は医学的根拠と業務との因果関係が証明された精神神経系障害に限定していた。
 IT化が進行して筋肉労働が少なくなる中でストレス関連疾患や過労死(従前は脳血管障害、急性心臓死など)、さらには「うつ」・「過労自殺」が話題になり、直近では労働者の労働条件と生活環境も激変して心の不健康が増加し、企業のストレスチェックも制度化された。にも拘らず労働者の過労やストレス関連疾患が減少する兆候は見られない。
 メンタルヘルスやストレスの健康管理が困難な理由は、その症状・症候、病因、治療法、健常との境界、生活との関係、などが複雑多様なためである。人間が考える葦である限り、たとえ遺伝子解析を含む医療技術が進歩したとしても精神障害や心の健康問題は際限なく持続するであろう。
 実例を見てみよう。今まで特別の病気がなかった現役労働者が急死した場合、“もしや仕事による過労のせいでは”と疑う人は多い。そんな人が労災認定を申請したとする。労働基準監督署ではそれを「認定基準」に照らして検討するほか専門医や中央労働保険審査会、時には裁判で審議して業務との因果関係を決定する。業務によると認められると労災となり、認められないと業務外疾病(私病)となる。平成28年の統計では、心臓・脳血管障害の申請件数は825件、うち認定率(業務上疾患数÷決定件数)は38.2%、また自殺を含む精神障害の申請件数は1,586件で認定率は36.8%であった。なお心臓・脳血管障害の業務上死亡者の内数は107件、同じく自殺したのち認定された人は84件であった。因みに同じ2016年の全国民の自殺者総数は21,897人で勤務が関係しているとみなされた事例が9.0%であった。また犯罪での死亡者は337人と報告されている。これらと比較して、過労死等の件数は多いのか、少ないのか?即断はできないが昔は話題にならなかったのも事実だ。世の中がこれほど急に変化しては、過労死等や仕事上のストレスで悩んでいる人は年齢を問わず多いに違いない。
 最近街を歩いていても仕事ぶりが見えるのは、運輸・土木・建設・サービス業・1次産業の一部のみで、製造業や大企業の労働態様は窺い知れない。働き方のごく一部しか知らない人が、バイオリズムを無視して孤立的な環境で働き、自己統御の術も発揮できないで消耗したり、適切なストレス・コーピング(息抜き、休息)もできないことは十分あり得る。かの故・日野原重明先生が命名したとされる生活習慣病ではないが、「仕事の習慣」を見直して自己管理する術を養いたい。周囲もそれを支援して仕事で命を落さない工夫をしたいものである。
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     過労メンタルヘルスストレスチェック | 働き方改革
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