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ノーベル生理学・医学賞と先端医療技術の実用化
No006h (2019/01/15)
 昨年話題の医療ニュースは、ノーベル生理学・医学賞受賞とがんの免疫療法でした。免疫スイッチ療法、抗体医療、オプジーボ、遺伝子治療・・など、先端医療技術の発達は目覚ましく、医療従事者でも難解で理解に苦しむ記事も少なくありません。
 このような新発見は一朝一夕に確立されたものではありません。iPS細胞でノーベル賞を受賞された山中伸弥博士はむしろ例外的に早い方で、大学卒業20年後の2006年に成熟細胞の初期化(iPS細胞)についての論文を発表し、2012年に受賞されました。このiPS細胞技術は、新薬の開発や再生医療などに応用されて、パーキンソン病・老人性黄斑変性症・心臓病などに適用される日の到来が間近かに迫っています。因みに、iPS応用研究の経費は年間100億円超とも言われ、そのためにか?博士が映るマラソンのテレビを見るたびに複雑な心境になる人もいると思います。一方、山中博士の拘りかと感じることは、新しい医療技術の実用化に対する「効果と安全性の担保への信念」です。博士は、効果や安全性が確認されないまま再生医療や遺伝子医療と称して市井で実施されている高額な自費診療に対して強い懸念を呈されています。
 今回の受賞者本庶佑博士は、1970年代初期に免疫グロブリンの抗原多様性の仕組みを発表され、90年代に免疫細胞表面のPD-1というたんぱく質の役割を明らかにし、2000年ごろからヒト抗PD-1抗体で免疫細胞を活性化する免疫療法薬の開発を小野薬品工業との共同で企図されて実用薬(商品名オプジーボ)の治験を経て、2014年から特定のがん患者に実用化されて今回の受賞に至りました。1987年に免疫原理の分子遺伝学的研究で受賞された利根川進博士のノーベル賞を乗り越えて、本庶氏が受賞されたのは、免疫細胞と腫瘍細胞の分子機構に加えてがん治療薬の実用化の双方に新しい扉を開いたことが高く評価されたものと考えられます。対象疾患も、最初は悪性黒色腫から肺がん・胃がんなどに広がり、適応患者の増加に伴って薬価も下がりつつあります。他の薬剤や治療法との組み合わせで効果と効率が一層高まることも期待されています。
 受賞後、本庶博士が強調されていることは、生体の原理を解明する基礎研究の重要性です。基礎研究には、長期かつ多数の研究者・研究施設及び膨大な経費が不可欠です。氏の発言が重く受け止められているのは、近年の日本の科学研究環境の弱体化に不安を感じている人が多いからです
 国民の教育ニーズの変化に対応して大学改革が進められてはいますが、研究補助金制度や不安定な雇用制度等の影響で、若手研究者が腰を据えて長期に研究することが困難な状況が生じています。日本のノーベル賞のみならず、世界に貢献する日本発の新技術開発の減少が懸念される所以です。
 この数十年間を振り返るまでもなく、人生で最も成長し元気がある20歳・30歳代に、寝食を忘れて研究や仕事に没頭できない社会は、不幸な社会であるとしか言いようがありません。デジタル化社会の副作用と将来の人口減少による日本国の衰退が喧伝されてもいますが、1945年の敗戦時の人口が約8000万人であったことを考えると、過剰な心配は不要であると信じたい。大事なことは、困難に対して国民が“なにクソーッ!”と思う気力ではではないでしょうか。 
RT
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